一切手を触れず、ただ「右に動け!」と心で強く念じただけで、ディスプレイに写し出された箱がゆっくりと右に動き出す・・。まさか、何かのトリックかと疑いたくなるような驚愕のシステムを、最先端技術を駆使して現実化したベンチャー企業が、ニューロスカイ社です。2004年に創設されたシリコンバレー(サンノゼ)にあるこの企業の不思議なテクノロジーに、これまで同社を取り上げたマスコミもやや度惑いを隠しきれませんでしたが、十数万人が参加した本年1月のCESに同社製品が堂々出展され、その技術の有効性が改めて実証されて注目を集めています。
超能力のようだと御紹介しましたが、もちろん、ニューロスカイ社のこの技術は非科学的なものでは決して無く、脳波検出技術というハイテクを核としています。人間は、様々な心理状態で何かを考える毎に異なる「脳波」を外に発信しています。このことは以前から医学的に知られていますが、この超微弱な脳波を検知・解析し電気信号に変換する特許を同社が取得。集中力を使って念じただけでコンピュータにその信号を送信し、画面のマウスの動きを、手を使わずにコントロールできるという仕掛け。同社のシステムでは、より精緻に伝えるべく、脳波に加えて眼球の動きとまばたきもセンサーでキャッチして合わせて信号化し、正確性を高める手法を採っています。送信側の人の頭にヘッドギアの形をしたコントローラを装着して脳波を検出しますが、お医者さんで超音波探知するときに塗られるゼリー等が一切不要で、ヘッドフォンのように気軽に装着できること、そして何と言っても安価な技術で実現していることが、将来の大ブレイクを予感させます。
この夢の技術の応用先について、ニューロスカイ社は3分野を挙げています。まずは家電製品。直ぐに思いつくのはゲーム機器への応用です。任天堂のWiiがコントローラを持って振る動きで操作するという新しいインターフェースで大成功中ですが、これがゲーム2.0とすれば3.0は脳波によるゲームアクションのコントロールでしょう。集中力の高い方のプレーヤー、ボールの行方を瞬時に判断できるプレーヤーが勝利する、ややこしいボタン操作が不要となれば、ゲームは益々リアルに、スリリングになること間違いなし。次の応用分野はお気づきの通り、医療関係です。手を使わなくても情報入力や機械操作ができるとなれば、そうした機能が日常生活の大きな助けとなる方々にとって大変な朗報です。そしてもう1つの分野は教育・トレーニング。脳波検出により集中力が落ちてきたと分かったら、的確な指示をその人に出すことで学習時やパイロット、ドライバーの操縦時の集中力を高めようというものです。
世の中に変革を与えそうなこの新技術ですが、調べてみると、実はニューロスカイ社だけでなく、最近になって脳波や脳の動きをベースとした実用開発が様々なところで進んでいることを知って驚きました。サンディエゴ北部のサンマルコスのサイバーラーニングテクノロジー社も同様なゲーム用脳波コントローラを開発中、ワシントン大学では脳波信号でロボットを動かす技術の開発に成功、そしてホンダでも、あのアシモが脳の血流を検知してその信号で動かす技術を開発中で、現在既に8割以上の作動成功率だそうです。スウェーデンのインタラクティブ研究所でも数年前からこの分野の技術開発を進めており、ユニークなのは、人が念じたような味のカクテルを作る装置まで研究中だとのこと。もちろん、こうした技術のベースとなる研究は、NASAではもっと以前から進められており、日本でも産総研等で取り組まれています。
技術の流れを考えても、ディスクトップ、ラップトップ、そしてモバイルと続き、次に来るのはウエアラブル。単に小さくて身に付けやすいということではなく、物理的に「身に付ける」ことでニューロスカイのように情報入力のイノベーションを起こし、やがては自己情報の常時発信も可能になるわけです。これまでのコンピュータが人間の計算と記憶の能力を補完してきたとすれば、これからのITは人の感覚と心理の能力を飛躍させ、想像の付かない新世界を創り出すのかも知れません。ニューロスカイを御紹介下さいました伊藤さん、有り難うございました。
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