BaySpo 912号(2007/03/23)掲載
オフショアからニアショアへ
〜変わりゆく大企業のアウトソーシング先〜
ェトロ・サンフランシスコ・センター 星野 岳穂
星野 岳穂(ほしの たけお)
 
1962年生まれ、東京都出身。1987年通商産業省(現 経済産業省)入省、電子機器課、地球環境対策室、航空機武器宇宙産業課、原子力産業課、鉄鋼課等に在任し、主として産業振興、技術開発政策を担当。2004年7月、JETROサンフランシスコに勤務。

 先月末の地元紙サンノゼマーキュリーに、シリコンバレー大手企業の「ニアショア」の記事が掲載されていました。これはビジネスのアウトソースの形態の1つで、自社の業務の一部を、海を隔てた外国企業に委託して出してしまうのがオフショア、自国の他企業にお任せするのがオンショア、そしてその中間、すなわち本国から比較的近い距離の国、地域にアウトソースする場合をニアショアと呼んでいます。米国で言えば、メキシコ、コスタリカ、あるいはカナダといった近隣地域に業務委託するわけです。

 ニアショアという戦略は結構前から議論され実際のビジネスでも進められているのですが、あまり耳馴染みがありませんでした。もちろんインテル、ヒューレット・パッカード、サンマイクロ、オラクルやグーグルなど大手は全世界に拠点を展開していますから、既にオフショアもニアショアもどんどん進められていますし、そもそも米国のような広大な国では、自国内にアウトソースしてもそれがオンショアかニアショアという議論はあまり意味がありませんが、最近の動きとして、インドや中国というオフショア一辺倒ではなく、近隣地域への事業展開も改めて評価され始めているということです。

 アウトソーシングの最大の目的は言うまでもなく大幅なコスト削減にありますし、更には時差を利用した24時間体制とか、アウトソーシング先の市場開拓も視野に入っている場合もあります。しかし、米国企業が英語圏である遠隔地のオフショア先にコールセンターやカスタマーサポートをどんどんアウトソーシングしたものの、英語の違いや文化の違いから顧客との意思疎通や満足度が必ずしも十分にできないことが露呈してきました。

 また、最近は、米国大手はそうしたビジネスサポートや大量生産だけにとどまらず、研究開発、商品開発部門までも次々とインドや中国等のオフショアに移転していますが、その結果オフショア先が経営戦略的にも重要となり、企業幹部が頻繁に自社とその地を往復せねばならなくなり、遠隔地であるが故に時差で予想以上に移動に疲れますし、時間のロスも大きくなってきました。情報漏洩を防ぐ管理の面も、遠隔地であればあるほど難しくなってきます。

 これらを総合的に考えると、人件費等のコストが従来のオフショア先に比べて必ずしも安価でなくても、上述したリスクやコストまでを視野に入れてアウトソーシング先を選択する場合に、文化的にも近く時間帯が同じで優秀な人材を使えるような近隣地域に目を向けるのは自然の流れでしょう。例えば最近では、サンマイクロシステムズはテクニカルサポートの業務の一部をインドからノバスコシア(注:カナダ東部の州)に移転させています。よりコミュニケーションが容易になったはずです。その意味では、もちろん英語が通じるかは重要な要素であることに間違いありませんが、しかし必ずしも言語が共通か否かは全てではなく、むしろ歴史的・文化的な背景が近かったり、時差が少なく電話で直接コミュニケーションすることで相互の誤解を最小化したりできることの方がはるかに重要だということが近年の経験から明らかになっています。

 さて、日本の場合は、各企業のアウトソーシング先は地理的・文化的に近い中国が圧倒的に多いそうです。これはオフショアというよりニアショアに近い関係かも知れません。そして東南アジア地域に続きます。米国企業の最大のオフショア先であるインドは、日本企業にとってもまさにオフショアになりますが、関係強化は未だこれからといったところです。

 しかし、中国にしてもインドにしても、急速な経済成長を背景に人件費がずいぶん高騰してきました。そこで最近は、当初からその両国ではなくフィリピンやベトナム等の東南アジア地域に関心を寄せる企業も増えてきました。私個人は、いよいよベトナムが本格的に注目されるのではと感じています。IT技術者の賃金は、今となっては中国やインドよりもやや安価で、勤勉な国民性で労働力も平均30歳代と言われています。シリコンバレーの中核であるサンノゼ市は、歴史的経緯もあってかなりの数のベトナム人が在住し、着実に当地コミュニティネットワークに入り込みハイテク・ビジネス人材がどんどん育ち始めています。最新の統計では、日本への海外留学生の第5位がベトナム人だそうです。日本がベトナムをニアショアに選択すれば、シリコンバレーと近いベトナム、そのシリコンバレーと日本の関係を強くして、中国やインドとは違った新たなハイテクトライアングルが実現できるかも知れません。

有澤保険事務所

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