BaySpo 914号(2007/04/06)掲載
「クリーンテック・バレー」に変身を遂げるシリコンバレー
ジェトロ・サンフランシスコ・センター 星野 岳穂
星野 岳穂(ほしの たけお)
 
1962年生まれ、東京都出身。1987年通商産業省(現 経済産業省)入省、電子機器課、地球環境対策室、航空機武器宇宙産業課、原子力産業課、鉄鋼課等に在任し、主として産業振興、技術開発政策を担当。2004年7月、JETROサンフランシスコに勤務。

 最近すっかりYouTubeにはまってしまい、いつ削除されてしまうか分からないという危機感にも煽られて懐かしのTV名場面を片っ端から観賞していたのですが、さすがにエンタテイメント関係はネタ切れで、つい職業柄か、最近はビジネス関係の情報もYouTubeで探し始めるようになりました。その第一歩で「シリコンバレー」と検索して出てきた映像が、本年2月に開催されたJointVenture総会での、ゴア元副大統領のスピーチとKPCBの大御所パートナー、ジョン・ドーア氏のインタビューでした。今年からはJETROサンフランシスコも本会議にはスポンサーとして参加、全体の様子は本誌2月9日号で既に御紹介した通りですが、特に当地への影響力が絶大なドーア氏のクリーンテクノロジーへの熱い姿勢に見られるとおり、IT、バイオに続く第三の波としてクリーンテクノロジーへの注目度が一気に高まっています。ドーア氏は「娘から『お父さんたちの世代が起こした問題なのに何故自分たちで解決しないのか』と問いつめられた」と言及、自ら次々と投資を行い「シリコンバレーは、ソーラー・バレーに向けて変身を始めようとしている」と言い切っています。去る3月27日にサンノゼで開催された恒例の「Annual Top Ten Tech Trends Debate」でも、ドーア氏のクリーンテクノロジーへの熱弁は衰えることを知りません。

 実際振り返ってみますと、クリーンテクノロジー分野へのベンチャー企業への投資は05年後半当たりから急速に活発になり始めています。ブッシュ大統領の一般教書演説でもシュワルツネッガー知事も再生可能エネルギーを最重要事項の1つに置いていますし、シリコンバレーの企業経営者やベンチャー・キャピタリスト達が環境関連技術開発への補助金を大幅拡大すべく積極的なロビー活動を行っています。もちろん背景には、昨今の原油価格の高騰があることは論を待ちません。筆者も、随分前になりますがIPCC(気候変動政府間パネル)で「経済への影響レポート」を各国の専門家と共同で作成した際のシミュレーション分析で、太陽光パネルを爆発的に普及させるには1バーレル40ドル以上にでもならない限り経済的には難しいとの結論を報告したことがありますが、今や40ドルどころか60ドルを突破しているわけで、十分ビジネスとして成立する環境になっています。しかし、エネルギーは安定供給という大命題を背負っていますから、政府の後押しが無いと軽々に新エネブームとはならないため、シリコンバレー陣がロビー活動に力を入れているのでしょう。エネルギー問題は来年の大統領選においても極めて重要なテーマの1つになると見て、シリコンバレーの影響力を今のうちから高めておくことというのも重要な判断です。

 シリコンバレーのクリーンテックへの取り組みは、私が最近楽しく拝見している瀧口範子さんの最新ブログにも詳しく記載されていますが、シリコンバレーのベンチャー企業では、ミアソール、ナノソーラー、サンパワー、ナノシス、デイスターといったところが投資を集めて勢い付いています。技術的に注目されるのは、巨額の投資を受けたミアソール、ナノソーラーとも、現在の主流とされるシリコン系の太陽光パネルではなく、CIGSというシリコン以外の材料(銅、インジウム、ガリウム、セレン)を追求していることです。シリコン系は基本的には半導体チップと同様の製造方法のため生産コストが高いのに対して、CIGSはエネルギー変換効率は劣るものの何と言っても生産コストが安く、ポリマーのような柔らかいシートに原料を付着させアルミ箔のようにくるくる巻き取っていく生産工程となっており工場建設自体も安価で住むというメリットがあり、取り扱いや価格面で有利と見て投資家の関心を惹き付けたわけです。両社とも今年から量産を始める予定にしているとのこと。屋根の上に備え付けるのも、シリコンパネルより遙かに簡単で、その分耐用年数が短いものの、もし壊れたら取り替えればよいと割り切ってしまえば、CIGSの方がかなり有利になる可能性があります。

 太陽光パネルと言えば、日本企業の競争力が圧倒的な分野。シャープ、京セラ、三菱電機、三洋電機の4強が世界市場に君臨しておりますが、シリコンバレーが総力を挙げて非シリコン型太陽光パネルを創成し、それをグーグルや世界を動かすシリコンバレーの大企業が一斉に社内に採用し始めることになると一気に逆転ともなりかねません。ここは是非、日本対シリコンバレーという構図ではなく、クリーンテック分野の日本の大企業やスピンオフ、ベンチャー企業がシリコンバレーに拠点を設けて、シリコンバレーのインフラと投資家・ベンチャー企業と完全に協力して世界に太陽光エネルギーシステムを共同で普及していくような戦略を構築したいものです。

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