BaySpo 916号(2007/04/20)掲載
じわり高まり出した米国の環境保護意識
ジェトロ・サンフランシスコ・センター 中島 丈雄
中島 丈雄 (なかじま・たけお)
 
1992年JETRO入社、情報システム室、中小企業庁国際室、経済産業省米州課、JETROニューヨーク調査部、海外調査部北米課などを経て、2006年10月より現職。東京都出身。

 最近メディアに環境問題が登場しない日はないと言ってよいでしょう。米エネルギー省によると、2006年の米国の二酸化炭素(carbon dioxide:CO2)排出量は、59億メトリックトンで、これは世界の排出量の22%を占め第一位。今後も毎年1.3%ずつ増加すると見込まれます。世界の自動車の3台に1台が走る米国では、化石燃料から排出されるCO2の最大要因が、自動車などの輸送関連となっています。排出量第2位の中国も伸び、2030年には米中で世界のCO2排出量の43%を占めるとのこと。ちなみに日本は、2030年でも現在と同水準の12億トンにとどまり、主要国で唯一排出量が増加しない“優等生”になりそうです。

 筆者は2000年〜04年末までニューヨークに駐在しましたが、この間環境問題が米国の表舞台に登場することはまずありませんでした。特に01年9月の同時多発テロ以降、米国は安全保障問題一色に彩られてきました。貿易問題が議論される際、「環境保護をしない国との貿易は制限せよ」との主張がなされることはありましたが、これは確かに環境保護の主張だったものの、他面では保護貿易の主張でもありました。そのため、基本的に市場経済を支持する米国民の間では十分な支持を得られませんでした。しかしハリケーンによる被害や異常気象が続くと、米国民の意識もさすがに変わってきたようです(CO2の排出とこれらの現象との間には、十分な科学的な裏づけはありませんが)。

 米連邦議会に提出された法案のうち、「carbon dioxide」という語を含む法案は、107議会(2001〜02年)では51本でしたが、109議会(2005〜06年)には71本に増え、この1月に始まった110議会(2007〜08年)には早くも20本が提出されています。ゴア前副大統領が制作指揮した「不都合な真実(An inconvenient truth)」も全米でヒットを飛ばしました。また4月3日、連邦最高裁は「環境保護局(EPA)には温暖化ガスを制限する権限がある」とする判決を出しました。5対4という微妙な判断でしたが、温暖化に関わる科学的証拠が十分に揃っていない段階で、最高裁がこのような結論を下したことは特筆すべきです。現在、カリフォルニア州らが独自に導入した厳しい自動車CO2の排出規制に対し、業界団体が連邦規則違反として訴えていますが、この裁判の行方にも影響が出るでしょう。

 カリフォルニア州ではとりわけ環境意識が強いようです。社会・政治的側面もありますが、電気代やガソリン価格が他地域と比べてかなり高いことも、環境や省エネを身近な問題として意識させるのでしょう。レギュラーガソリンは、全米平均の1ガロン2.80ドルに対して、ロサンゼルスが3.28ドル、サンフランシスコは3.38ドル(4月9日時点)。全米主要都市の1位と2位です。州のガソリン税が全米で3番目に高く、加えて非常に厳しいガソリン成分基準などが価格を押し上げています。

 カリフォルニア州民の「環境指向」の例を挙げてみましょう。(1)トヨタ自動車さんによると、同社の全米での市場シェアは約12%(2005年末)ですが、加州では約18%と抜きん出て高い。移民が多く米国車へのこだわりが少ないことに加え、ガソリン価格の高まりで燃費に優れた日本車が選ばれているのではないかとのことです。(2)おなじみの「カープールレーン」については、2005年から州運輸局はハイブリッドカーなどの低排出ガス車にClean Air Vehicleステッカーを付与し(発行数は上限あり)、それを貼った車は同乗者がいなくてもこのレーンを走行できるようにしました。最近このステッカーを貼ったプリウスやシビックを頻繁に見かけます。カープールレーンを利用するための「乗り合い」も盛んです。友人でも同僚でもない人同士が、他人の車に乗り込んで通勤するというのは不思議な感じがしますが、それほどラッシュがひどいということでしょう。朝夕にはあちこちのステーションで長い列ができています。(3)車を使いたい時だけ借りる「カーシェアリング」も急速に会員を増やしています。サンフランシスコに本拠を置くシティカーシェアの場合、料金は保証金300ドルのほか月々の会費が10ドル。これに利用時間と距離による料金が加算されます。例えば3時間利用して20マイル走ると、14.8〜20.8ドル。保険もガソリン代も含まれますから、お手ごろと言えるでしょう。CEOのハッチンソン氏は、「わが社の200台近い車のほとんどが日本車。丈夫で燃費がとても良いからね」と述べています。

 米国で高まり出した環境対策は、カリフォルニア州がリードしていると言ってよいでしょう。膨大な全米のCO2排出に対しどれだけの効果があるかは不明ですが、小さくも着実な一歩です。そして環境意識の高まりは、この分野で高い技術とノウハウを有する日本企業にとっても大きな可能性をもたらすことでしょう。

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