仕事の関係で、家電量販店やディスカウントストアを見に行くことがありますが、そのたびに日本と米国の市場の違いを強く感じます。データで補足しながらそのいくつかを挙げてみましょう。
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(1)米国経済はマクロレベルではインフレ懸念が指摘されていますが、詳細を見ると品目によってかなりばらつきがあります。労働省の消費者物価指数に従うと、1997年=100とした場合、2006年のパソコン価格は10分の1(11)、テレビは約3分の1(36)にまで下がっています。乗用車はほぼ横ばい(96)。一方トマト(151)、スポーツイベント観戦費(153)、ペット診療費(160)、大学の学費・授業料(172)、ガソリン(212)などは値上がりが大きい。
パソコンやテレビの場合、品質や性能を向上させることで、実際の購買価格が下落するのを多少ゆるやかにすることはできるでしょう。しかし経験的に言っても、品質・性能の向上以上に価格の下落は早く大きいもの。米国で頑張っていらっしゃる日本企業の多くが、獣医さんや大学経営、ガソリン販売ではなく、価格下落の激しいこれらモノ作りで勝負をしています。この分野は、競争相手との品質・性能面などの競争に加え、業界全体を覆う価格下落という厄介な敵とも戦わなければならないわけです。
日本市場も価格下落が目立ちますが、米国と違ってほぼあらゆる品目でそれが見られます。パソコンはこの7年間で約10分の1、ブラウン管テレビはこの10年で4割に。しかし生鮮野菜、プロ野球観戦費、ペット診療費などもこの10年間価格が上がらす、教育関連費とエネルギーが数ポイント上昇した程度です。
米国では一部セクターの価格は年々上昇している一方で、エレクトロニクスやハイテク分野は激しく価格が下落している。となると、日本以上にこの分野の企業は、モノ作りの方法を根本から見直す必要性を強く感じてきたのではないでしょうか。IBMがパソコン事業を中国のレノボに手放し、アップルは特定市場にターゲットを絞り込み、HPやデルが世界で最も安い製品を大量に作り続ける体制を築いてきたのも自然な流れと言えるでしょう。
(2)例えばパソコンやテレビをみると、売れ筋商品の価格帯にも日米でかなり差があることがわかります(表1、2参照)。米国のノートブックPCの売れ筋は1,000ドル未満の普及機種、対して日本は1,500ドル(18万円)以上の高機能機種です。大型テレビはさらに差が大きく、米国では2,000ドル(24万円)未満が最も豊富なのに対し、日本の店舗にはその価格帯の製品は置いてないのです。日本の価格競争も確かに厳しいのですが、比較的高額の商品が売れるという点は救いでしょう。米国市場はこの点まったく容赦がなく、多くの消費者にとっては安いことが必要最低条件となっているようです。
(3)競争企業(参加プレーヤー)の数も大きく違います。日本のエレクトロニクス市場の場合、大手日本メーカーを中心とし、そこにいくつかの中小メーカーや外国メーカーが加わるという構図。米国市場もやはり大手が強いものの、その下に実に多くのメーカーが控えています(表3参照)。最近は日本市場にも聞きなれないメーカーの製品が増えましたが、米国にはその倍から製品よっては10倍近い数のブランドがあります。その多くが中国系・台湾系・韓国系と見られます。
ひとつの象徴的な例は、世界最大の消費者家電ショー「Consumer Electronics Show」(2007年1月8〜11日、米国ラスベガス)です。全出展社数2,700のうち、地元米国は最多の450社を誇りましたが、中国が330社、台湾375社、香港135社、韓国120社と、このアジア4カ国・地域で1,000社近くが出展しました。実に3社に1社以上を占めます(日本や欧州各国からはそれぞれ数十社程度が出展)。これだけの企業が米国市場に流れ込み、明日の成功を目指しているのです。
日本市場は、納期、低い不良品率、細かな仕様、アフターサービスなどの面で確かに世界有数の厳しい市場ですが、米国市場も、極めて多くの有名・無名、大中小のメーカーが入り乱れ、ひしめき合う中を勝ち上がっていくという日本とはまた異なる厳しさがあると言えるでしょう。
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