BaySpo 924号(2007/06/15)掲載
シリコンバレーに流入し続ける
「ハイテク・インド人」
ェトロ・サンフランシスコ・センター 中島 丈雄
中島丈雄(なかじまたけお)
ジェトロ・サンフランシスコ・センター調査部。1992年JETRO入社、情報システム室、中小企業庁国際室、経済産業省米州、JETROニューヨーク調査部、海外調査部北米課などを経て、2006年10月より現職。東京都出身。

 シリコンバレーに住み、ハイテク企業の動向を見ていると、そこにインド人の方たちの存在感を強く感じます。2005年の数字でインド人(国籍を問わない)は全米人口の0.8%(232万人)に過ぎませんが、シリコンバレーでは人口の6〜7%を占め、全米平均より相当高くなっています。移民とイノベーションの研究で名高いカリフォルニア大学バークレーのザクセニアン教授によると、当地では技術者の約3分の1(30万人)、ハイテク企業の起業の6〜7社に1社、ハイテク企業CEOの7%がインド人だとのこと。

 米国では2001年頃からITバブルが崩壊し始め、2002年〜03年度には高度技術者に与えられるH‐1Bビザの発給数は、2001年ピーク時の約半分にまで落ち込みました。同ビザの4〜5割をインド系の人々が取得していましたから、当時は企業に解雇され滞在資格を失った「ハイテク・インド人」が母国への帰国を余儀なくされるというニュースをしばしば目にしました。9.11テロ事件も外国人労働者への風当たりを厳しくしました。

 一方、90年代に始まった自由化政策の効果が出始め、インド経済が急成長をとげます。90年代後半、インドは7%を超える成長を示し、その後世界的景気鈍化の影響で2000年〜02年は若干成長率が鈍りますが、2003年8.5%、04年7.5%、05年8.4%と高成長を続けます。仕方なくインドに戻るのではなく、積極的に母国でビジネス・チャンスを見出そうとするインド人も増えたようです。

 こうした動きを受けて2002年〜04年頃になると、米国企業によるインドや中国などへのオフショアリング(海外業務委託)の動きが強まります。2004年の米大統領選挙では、「オフショアリング=雇用・頭脳流出」との批判も盛んになされました。例えば2004年2月23日のUSA Today紙社説は「頭脳流出が米経済を脅かしている(中略)かつて米国企業はブルーカラーの仕事を外国に移転してきたが、今や工学、ソフトウェア、製品デザイン・開発などの知識労働さえ中国やインドに流出させている」と警告しています。つい最近も一部日本のメディアは、米国からの頭脳流出やシリコンバレーの地盤低下を指摘していました。

 しかし、インド人のH‐1Bビザ取得数が鈍ったのは、この2002年と03年だけで、その後またすぐに回復し始めます。この頃から米景気も本格回復し、停滞していたハイテク産業も上向き始める。2004年度以降、H‐1Bビザ枠は100%埋まるようになり、今年秋から始まる2008年度のH‐1Bビザ枠は、受付開始後数時間で「Sold Out」したそうです。

 永住権取得者はどうでしょう。2000年〜06年をみると、メキシコ人の取得が年平均17.2万人で圧倒的な1位ですが、2位はインド人で毎年6万人強が取得しています(3位は中国人の5.5万人)。メキシコ人の取得は90年代平均に比べて大幅に減っているのに対し、インド人は90年代平均の年3.5万人(4位)に比べ、むしろ加速しています。この中にはH‐1Bビザが失効したために、永住権取得に切り替えた人もいることでしょう。

 また米国の高等教育機関で学ぶインド人留学生は、2005年で年間8万人超。国別で14%強のシェアを占め4年連続の1位です。次いで中国人、韓国人、日本人の順。インドの留学生に特徴的な点は、かれらは米国で高等教育を受けたのち、本国に戻らず米国に留まる傾向が強いということです。やや古くなりますが、OECDの2002年調査では、米国で科学技術系の博士号を取得したインド人は、その8割が米国に留まっていたとのこと。中国人も高く88%が残留組。対して日本人(15%)と韓国人(11%)はほとんどが帰国組です。近年はインドに戻る学生も増えているかも知れませんが、インド人留学生数自体が最近5年間で47%も増加しているため、米国に残る学生の数が減っているかは不明です。

 H‐1Bビザ、永住権取得者、留学生の3者を合計した在米インド人は、この5年間で38%増加しており(全米人口は約5%増)、毎年15万〜20万人が米国に流入しています。これはサニーベール市(人口13万人)やサンタクララ市(同11万人)と同規模以上の「インド町」が毎年米国に誕生している計算です。「米国からインドや中国に頭脳が流出した(している)」というのは事の一面しか伝えておらず、一方で、優れた頭脳の米国流入も増え続けています。3月23日号の本欄で「オフショアからニアショア、オンショアへの回帰」との指摘がありましたが、インド人の動向もそれを裏付けるものです(米経済が移民に過度に依存しているのは確かかも知れません)。

 最後に米国にいるインド人の特性を示すいくつかのデータをご紹介します。在米インド人の68%は大学卒以上(全米平均は27%)、61%が専門職または管理職以上(同34%)、子供を含む一人当たり平均所得は33,400ドル(同25,000ドル)、77%が英語を不自由なく話すなどとなっています(国籍を問わない。2005年センサス)。インド人の優れた特質がわかりますが、同時に彼らを惹き付け続けるシリコンバレーの力を改めて思い知らされるところです。

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