BaySpo 928号(2007/07/13)掲載
食糧確保に苦しむ貧困層を企業が支援
〜社会的責任と企業イメージ〜
ェトロ・サンフランシスコ・センター 中島 丈雄
中島丈雄(なかじまたけお)
ジェトロ・サンフランシスコ・センター調査部。1992年JETRO入社、情報システム室、中小企業庁国際室、経済産業省米州、JETROニューヨーク調査部、海外調査部北米課などを経て、2006年10月より現職。東京都出身。

 米国農務省によると、米国で食糧の安定的確保に不安のある人は3510万人。全人口の約11%に上ります(2005年)。この数字は「健康的な生活を送るために必要な食糧を常に家族全員が得られるか」との回答に「very low」、「low」と答えた人の合計で、実際に「飢えている」人の数ではありませんが、それにしても多いですね。ホームレス人口は、日本の2万人弱に対し、米国は75万人です。日本でも格差や貧困の拡大が問題になっていますが、各種統計をみると依然米国の方が格差も貧困層の多さも上回っています。

 貧困層に対する食糧支援や寄付・慈善行為は、企業の社会的責任(CSR)のひとつとして盛んに行われています。全米各地で活動するフードバンクは、貧困層に食糧を提供する非営利組織。87年に設立されたサンフランシスコ・フードバンクによると、人口74万人のサンフランシスコで食糧を得られない不安を持っている人は15万人(人口の20%)近いといいます。同フードバンクには、アドビ、フェデックス、メーシーズ、三菱UFJファイナンシャル・グループのユニオンバンク・オブ・カリフォルニア、アルバートソンズなどの企業が主要スポンサーに名を連ねています。

 寄付を促進する法的環境や税制が整備されていることもこの動きを後押ししています。ビル・エマーソン食糧寄付法(96年)によって、寄付した食品などが原因で何らかのトラブルが起きた場合でも、寄付した人が民事や刑事責任に問われることはありません。また法人は課税所得の10%、現物寄付の場合は原価の2倍を上限に税金控除が受けられます。食品業者にとっては、在庫を廃棄処分にするより、寄付をした方が得というシステムになっています。

 世界第2位の食品会社クラフトは、20年以上にわたり飢餓撲滅のための活動をしており、05年には7000万ドル相当を世界中の飢餓支援プログラムに援助しています。このほかざっと調べただけでもコカコーラ、コストコ、ウォルマート、任天堂アメリカなどが積極的な食料寄付を行っています。どの企業も、自社の社会貢献活動をウェブページや年次報告書に載せ、良い企業・製品イメージを確立し、また優秀な人材を引き寄せるための有効な手段としています。もちろん純粋な慈悲の精神が根底にあることは確かですが、3500万人もの人々が食糧確保に不安を持つ米国では、彼らに対する良いイメージ作りは重要なマーケティング手法になっているといえるでしょう。

【新興・中堅IT企業も社会貢献活動】
 寄付行為も盛んです。米国の個人・企業の年間寄付総額はおよそ2485億ドル(04年、AAFRC調べ)で、日本の約6130億円(03年、国税庁調べ)の50倍近い規模があります。ビル・ゲイツ氏と夫人が設立した著名なビル&メリンダ・ゲイツ財団は、06年末時点、慈善団体としては世界一の334億ドルの基金を保有しています。

 新興・中堅のIT企業の中にも積極的な取り組みが見られます。オンデマンド顧客管理(CRM)サービスを提供するセールスフォースは、社会貢献部門を独立させ、セールスフォース・ドットコム財団を設立。全従業員が「就業時間の1%」をボランティア活動にあて、「株式の1%」を社会貢献活動とNPOへの助成金として活用し、「製品の1%」をNPOに無償で提供する「1/1/1」運動を続けています。06年には、イスラエルとパレスチナ両国で子供を失った親たちの和平組織PhotoVoiceに1万3000ドル、エイズで親を失った孤児を支援するスワジランドのNGO Thembanathi に1万ドル、といった寄付をしました。

 オンラインオークションの先駆け、イーベイの初代社長ジェフ・スコール氏は、イーベイのIPO後間もない99年、社会問題の解決を目指す起業家を投資する財団を設立。助成金(grant)の一例を挙げると、ネパールやインドで識字率を上げるため図書館建設に励むNGO、Room To Readに対し3年間で122万ドル、南米やフィリピンなどで優れた教育プログラムを展開するNGOのEscuela Nueva Foundationに102万ドル、などとなっています。カリフォルニア大学バークレー校「責任あるビジネスのためのセンター」では、社会的責任を果たす優良企業を輩出するための研究をしていますが、この研究に対し、マクドナルド、ヒューレットパッカード、ウェルズファーゴらの大手企業に加え、動画配信のベンチャー企業コンティキ(Kontiki)もスポンサーになっています。企業のブランドイメージ構築だけでなく「大学の優秀な人材をすばやく確保できるメリットがある」(同センター)とのことです。

 ITベンチャー企業の新陳代謝は非常に早く、先を見通しにくい彼らが、慈善活動や寄付行為に励む姿は一見奇異に見えます。全くのスタートアップ企業にはさすがにその余裕はないかも知れませんが、少し大きくなった新興企業がさらに成長するためには、本業だけでなく、社会貢献による企業ブランド向上も必要だということでしょう。また米国でもハイテク技術者の一部の人に対しては、技術のことしか頭にない人々、社会問題には無関心との誤解があるようですが、社会貢献はこういった負のイメージを軽減することにも貢献するはずです。
(執筆協力:浅井行代、中川天)

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