BaySpo 930号(2007/07/27)掲載
手塚治虫回顧展と拡大するアニメ・マンガビジネス
ェトロ・サンフランシスコ・センター 曽根 一朗
曽根 一朗 (そね いちろう)
1988年JETRO入社。展示事業部、海外事業部、ロサンゼルス事務所、国際交流部、対日投資部、外務省北米局等勤務を経て、2005年3月より現職。京都府出身。同志社大学文学部卒。

 サンフランシスコのアジア美術館(Asian Art Museum)で9月9日まで、米国初の本格的な手塚治虫回顧展が開催されています。今や、米国における日本製アニメは「ポケモン」ブーム、「千と千尋の神隠し」のアカデミー賞受賞等を経て広く定着しつつあり、マンガ本も書店の一角を占め、市民権を得ようとしています。対米ビジネスを一層拡大していく意味で、「マンガの神」と紹介される手塚氏が再評価される意義は大きいと思われます。

【手塚作品の高い芸術性】
 今回は、200点以上のマンガ素描パネル、コミックス表紙等が展示されています。NBCが「鉄腕アトム」を「アストロ・ボーイ」の名で全米にテレビ放映したのは今から40年以上も前の1964年のことでした。このほかテレビ放映された「ジャングル大帝」なども米国人に馴染みがありますが、1989年に60歳で亡くなるまでの生涯で約15万枚のマンガ原稿を書いたとされる手塚氏の膨大な作品群のうち、米国人が触れることのできるものは残念ながらごく限られています。ライフワークとされる「火の鳥」や医師免許を持つ特異な経歴が生かされた「ブラック・ジャック」など、各作品の解説と数枚の象徴的なページを効果的に展示することによって「マンガ」が持つ独自の芸術表現の豊かさと手塚氏のたぐいまれな表現力を提示することに成功しており、来場者は手塚作品が持つテーマの深さやヒューマニズムを十分に感じとることができます。
 サンフランシスコ・クロニクル紙(6月7日)は「今回の展覧会と近日刊行の文化歴史学者フレデリック・L・ショート著「The Astro Boy Diaries」を通じて、機械に魅入られた人道主義者、テクノロジーへの過度の依存を警告する科学者(医師)という矛盾を自ら体現するひとりの優れた人物について詳細に知ることができる」と紹介しています。

【アジア美術館初めての「マンガ展」】
 今回の展覧会は、これまで伝統的美術作品をとりあげてきたアジア美術館が「マンガ」の展覧会を行うという点でも画期的です。館長のエミリー・佐野氏、担当学芸員のヨーコ・ウッドソン氏は「アジア美術館への来場者は60歳代の白人が最も多いが、もっと若い世代、広い層に来てもらうために今回の展覧会を企画した。実際、若い世代からのリクエストが多かったのがマンガの展覧会だった。かなりの来場者を期待している」と述べています。美術館では、幕末から明治にかけて活躍し、マンガや劇画の先駆者とも評される月岡芳年の浮世絵展を同時期に開催し、来場者が手塚展とあわせてマンガの歴史的背景について理解を深める工夫をしています。

【米国でのマンガ読者拡大に期待】
 ジェトロが3月に発表した「北米コンテンツ市場の実態」報告書によると、米国におけるアニメとマンガの市場規模は小売ベースで32億2000万ドル(2005年)と推定されます。特にマンガ市場が急速に成長しており、テレビでアニメを放送している男の子向けマンガだけではなく、少女マンガ市場も拡大しつつあります。マンガの英訳本がほとんどを占める「グラフィックノベル」の2006年度売り上げは3億3000万ドルと5年前の4.4倍の規模となり、出版タイトル数も前年より2割近く増え、1224タイトルとなっています。
 現在のブームを牽引しているのは、米国でのマンガ市場開拓の先駆者的存在であり、「少年ジャンプ」英語版や少女マンガ雑誌「Shojo Beat」を発行するVIZメディア(サンフランシスコ)です。同社は今回の手塚治虫回顧展の広報や展覧会場内のマンガ・ラウンジ(来場者が実際にマンガ本やアニメの映像、キャラクター商品に接することができる)の設営に協力しています。同社のアルヴィン・リー副社長は、「マンガ読者は15歳から25歳までの層が中心だが、今回の展覧会によりマンガへの認識がより広い層に浸透し、ビジネスが拡大することを期待している」と語っていました。

【関連産業が集積するサンフランシスコ】
 VIZメディア以外にもアニメ・マンガ分野でサンフランシスコ・ベイエリアに拠点を構える企業が数多くあります。アニメ分野では、米国アニメ界の新興三大企業であるピクサー(トイ・ストーリー、ファインディング・ニモ等)、ドリームワークス・アニメーション(シュレック、マダガスカル等)、ルーカス・フィルム・アニメーションの主要拠点が当地にあります。その他アニメ・マンガ産業に密接に関係するゲームソフト産業も、米国最大手のEA(エレクトロニック・アーツ)のみならず、セガ、コナミ、ナムコ・バンダイ等主要日系企業が当地に拠点を有しています。このようにアニメ・マンガビジネスのゲートウェイともいえるサンフランシスコで開催される今回の手塚治虫回顧展は、今後の日本製アニメ・マンガの米国でのより幅広い浸透と関連ビジネスの拡大に向けた重要な一歩となるでしょう。

 ジェトロでは、コンテンツ分野の我が国中小事業者が米国でビジネス展開する際のサポートを行っています。日本のコンテンツビジネスをプロモートする英文ニューズレター(無料)も発行していますので、是非ご登録ください(http://www.jetro.org)。
「北米コンテンツ市場の実態」報告書はジェトロ日本語ウェブサイトhttp://www.jetro.go.jp/biz/world/n_america/us/reports/05001408
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