8月末、台湾のパソコンメーカー、エイサーによる米ゲートウェイ(カリフォルニア州)買収が発表されました。米国でのブランド力に劣るエイサーと、「牛の黒白模様マーク」で知られるゲートウェイ。補完関係が強いとして専門家の多くは好意的に捉えています。しかし、米国PC市場は製品の価格下落が激しく、どのメーカーにとっても生き残りは容易ではありません。
買収額は7億1000万ドル。エイサーがゲートウェイの株式を一株1.90ドルで100%買い取ります。発表前営業日の終値は1.21ドルでしたから、かなりの大盤振る舞いと言えるでしょう。これで、エイサーは年間2000万台を生産する世界3位(ノートブックでは2位)のPCメーカーになります。地域別シェアで最も大きな変化が生じるのは米国(表)。今回の合併の最大の効果は米国市場での地位向上と言えます。
半導体に詳しいDitto社長の石戸太氏によると、買収の目的は?エイサーの米国市場での地位向上(同レベルの競合他社を引き離す)、?受託生産から脱皮し、事業の柱を川上に移す、?レノボのパッカードベル(オランダ)買収の動きに先手を打つ(ゲートウェイはパッカードベルの買収交渉優先権を有している)といった面があるとのこと。
他の専門家はどう見ているでしょうか。第1に合併による規模の効果を指摘する声があります。「エイサーは米国でのシェアを現在の3倍(17%)程度にまで上げる可能性がある」(カレント・アナリシス)、「エイサーに対するHPの脅威が現実化しつつある」(ガートナー)。
第2に、製品・地域における両者の補完関係です。「エイサーはあらゆる価格帯のPCを取り揃えることができる。eMachineは低価格デスクトップ、エイサーは低価格ノートブック、ゲートウェイは中級品。そして高級品はフェラーリだ」(エンドポイント)、「ゲートウェイは一般消費者、エイサーは小規模ビジネスに強く、補完的な統合だ」(IDC)との意見が聞かれました。
第3に販売チェンネルの多様化。「エイサーは、ゲートウェイの直販チャンネルとベストバイなどの大型販売店チェンネルを獲得した。2年くらいで効果が出始めるだろう」(フォレスター)と予測しています。2年というと、IBMのPC部門を買収したレノボが、まさに買収2年後の07年第一四半期に米市場でようやく好業績を記録した時期です。
しかし否定的・懐疑的な意見も聞かれます。第一にブランドの差別化の問題。「エイサー、ゲートウェイ、eMachineはいずれも顧客層が似ている。しかもゲートウェイは失敗したブランド」(BMO)。両社の弱みと課題を指摘する見方もあります。「エイサーもゲートウェイも、企業向けの高額製品分野でほとんど存在感がない」(ゴールド・アソシエイツ)、「エイサーは委託生産の経験は積んでいるが、マーケティングやブランド戦略などの能力は疑問」(フォレスター)といった意見です。また「中国と台湾の形を変えた争い」(ビジネスウィーク)とも言える今回の買収劇。レノボにとっては「エイサーという強敵登場に加え、パッカードベル買収の目論見がほぼ消えた点は痛い」(ガートナー)と言えるでしょう。
世界のPC市場は、HPとデルの米国勢と、中国・台湾のアジア新興メーカーがシェアを競う構図。そこにアップルや日本メーカーが、独自のポジション取りを狙う大変厳しい市場です。「米国のPC市場は異常な状態。PCの平均価格は毎年4〜5%下落し、1台あたりの利益は数%しか出ない。よほどコストを下げるか、差別化をするかしないと生き残れない」(ガートナー)との言葉がそれを表しています。
【エイサー】
1976年、Stan Shih氏が創業。87年エイサーに社名変更。90年、Forbes誌が「アジア・ビジネスの重要人物25人」に同氏を選ぶ。イタリア、スペイン、オーストリアなど13カ国ではシェア1位。総収入113億ドル、従業員5400人。
【ゲートウェイ】
1985年、農家出身のテッド・ウェイト氏が創業、牛の白黒模様をトレードマークにし、しばらく農業州サウスダコタを本拠としていた。その販売スタイルはアップルにも影響を与えた。99年に株価84ドルに達するが、ITバブル崩壊で売上激減。04年にeMachineを買収。従業員は1650人。
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