一般編  Vol.161
大野 誠士さん
東京都出身。学習院大学法学部卒業。米哲学者ケン・ウィルバーが提唱するインテグラル理論を学ぶため渡米、ジョン・F・ケネディ大学大学院のインテグラル心理学・意識と変容学のプログラムに在籍し学ぶ。その後パシフィカ大学大学院にて神話学・深層心理学修士号取得。ジョン・F・ケネディ大学大学院に戻り、ソマティック・カウンセリング心理学修士号取得。現在ベイエリアの3カ所で心理セラピーを提供している。身体と神経系の統合をベースにした安全で自然なトラウマ療法ソマティック・エクスペリエンス(SE)の認定プラクティショナーおよびトレーニング・アシスタント。日本で行われるSEトレーニングの通訳としても活動。また3・11以降、震災復興支援プロジェクトにも参加している。
自己探求の延長から 世の中に貢献できる仕事に
オークランド、ウォルナット・クリーク、サンノゼで、主に個人やカップルを対象とした、心理セラピーとトラウマセラピーを提供する心理セラピストの大野さんに、専門分野に進んだきっかけやベイエリアでの暮らしぶりなどについてお話を伺いました。
大野  誠士さん

(Seiji Ohno)BaySpo 1315号(2014/02/07)掲載

ベイエリアに住むことになったきっかけ
渡米したのは2004年です。大学卒業後、父の勧めもあって留学することは決めていたのですが、最初は東海岸のロースクールを目指すつもりでした。紆余曲折を経てベイエリアに来ることになった背景としては、トランスパーソナル心理学という分野に出合ったこと、ケン・ウィルバーという哲学者の本を読んで衝撃を受けたことによるところが大きかったと思います。ウィルバーの理論を基礎においたインテグラル理論を包括的に学べる場所は当時、プレザントヒルにあるジョン・F・ケネディ大学にしか存在しなかったんです。そのプログラムには在籍したものの、結局卒業しませんでしたが。

ベイエリアの印象
 自由というか、適当というか。心理学やボディワーク、スピリチュアリティに関しても盛んな所なので、ここに住むことで得られるものがたくさんあります。

自分の専門分野について
 日本語と英語で、個人やカップルを主な対象として、心理セラピーおよびソマティック・エクスペリエンス(Somatic Experiencing®、以下SE)というトラウマセラピーを提供しています。専門分野の正式名称はソマティック心理セラピーといいます。ソマティックとは身体を意味しますが、本質的には心と身体は一つであるという意味です。従来、心理セラピーといえばトークセラピーが中心なのですが、トラウマや幼い時に形成された親との関係などは、普段は認識されていない身体の記憶や脳の本能の部分に依る所が大きく、いわゆる言葉だけのアプローチではその症状やパターンの元になる部分に届かないわけです。考えや感情だけでなく、身体の感覚や動きにもアクセスすることで、深い部分での変化や新たなレベルでの統合を呼び起こすことが可能になります。SEはピーター・リヴァイン博士が開発した、身体と神経系の統合をベースにした、安全で自然なトラウマ療法です。 その技法はストレスフルな出来事の後に落ち着くのを助け、進行中の症状や慢性的な症状の軽減や除去をうながします。昨年からは出産前後のトラウマ、子供・家族・グループとのトラウマワークに特化したトレーニングも受け始めています。
その道に進むことになったきっかけ
 端的に言えば、自己探求の延長ですね。深層心理学や神話学の勉強などを通じて、自分を掘り下げていく作業を続けていった所、身体を通じても自分を知る必要があるということに思い至りました。そこでソマティック心理学の勉強を始めたところ、そのプログラムがたまたま心理セラピストになるためのプログラムだったというわけです。その頃から直感的にこれはやる必要があるなと強く感じることは、あれこれ考えずにやり始めるようにしています。SEも直感に従って学び始め、それが今は仕事の大事な部分になっています。

英語で仕事をするということ
 心理セラピーという仕事においては、特に英語を苦に思うことはなくなりました。英語にアクセントがあっても、伝わる語学力があり、存在感とスキルがしっかりあれば、英語が母国語の方でも特に気にならないみたいです。アクセントとかを気にする人は、外国人セラピストの所にわざわざ来ないでしょうけど。

英語で失敗したエピソード
 留学当初、お店でサンドイッチを頼んだつもりだったのに、なぜかサワードウブレッドを丸ごと渡されて、それを変更できずに買って帰ってしまったことがありました。当時はへこみましたね。

英語が100%ネイティブだったら
どんな仕事に?
 同じようなことをやっていると思います。

あなたにとって仕事とは?
 自分を表現するための媒介であり、世の中に貢献していくための一つの手段。自分のことを成長させてくれるものだとも思います。

生まれて初めてなりたいと思った職業
 プロテニス選手。

いまの仕事に就いていなかったら
 教育関係でしょうか。

現在、住んでいる家
 East Bayに住んでいます。

乗っている車
 Honda Civic

睡眠時間・起床時間・就寝時間
 睡眠時間は7〜8時間。起床時間は7時半から8時の間で、就寝時間は12時前であることが多いです。

休日の過ごし方
 様々ですが、友達と過ごしたり、エクササイズしたり、ワークショップに行ったりしてることが多いですね。

好きな場所
 静かな所。Muir Woodsとか、明治神宮とか。

最もお気に入りのレストラン
 これから見つけます。

よく利用する日本食レストラン
 Gombei

1億円当たったとして、その使い道
 Building & Enhancing Bonding Attachment(BEBA)という、子供の健康的な成長や、より効果的な子育て、家族作りを支援する素敵な組織がサンタバーバラにあるのですが、それの日本版をつくる資金にしたいですね。

日本に戻る頻度
 1年に1回は帰りたいと思っているのですが、しばらく帰れていません。

日本からベイエリアに持って帰ってくるもの
 本、衣類。

現在のベイエリア生活で、不便を感じるとき
 最近はそう思うこともあまりないのですが、以前は交通機関関係で不便を感じていました。

日本に郷愁を感じるとき
 年末年始はやはり日本で過ごしたくなります。

お勧めの観光地
 ヨセミテ、カーメル。

永住したい都市
 ベイエリアか日本のどこかですね。今のところは、他の場所に住んでいる自分は想像出来ません。

5年後の自分に期待すること
 もう少し教えたり、書いたりする仕事が徐々に増える予感はなんとなくありますが、特に自分に期待することはありません。今をしっかり生きて、より自分自身につながることが出来れば、必要なことは自ずと起こるということを信じています。

最も印象に残っている本
 星野道夫『旅をする木』。高校生のときに、ガイアシンフォニーという龍村仁監督によるドキュメンタリー映画を通じて星野さんのことを知ったのですが、彼の写真や言葉に出合ってなんだか救われた思いをしたのを覚えています。英語ではA.H.Almaasの著作。

最近読んだ本
 村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』。村上作品はほとんど読んでいます。ベストではないですが、これもよかったですね。

最も印象に残っている映画
 『Contact』、『Avatar』、『Matrix』、『地球交響曲(ガイアシンフォニー)』シリーズ。

座右の銘は?
 「今を生きる」、「浅き川も深く渡れ」、「Go only as fast as your slowest part feels safe to go」。これは最近参加したワークショップで教えていただいた本のタイトルです。今の世の中はまだ右肩上がりにただただ成長することが推奨されていますが、環境問題を持ち出すまでもなく、そのあり方は近い将来成り立たなくなるのではないかと思います。この言葉のように、自分にあった安全で優しいペースを保ち、それでもしっかり進んでいくあり方を大事にしていきたいです。

(BaySpo 2014/02/07号 掲載)

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