ビジネス編  Vol.75
三堂 哲寿さん
愛媛県出身。東京大学工学系研究科電子工学専攻修了後、Avant!Corporationに入社。Synopsys Inc.による買収を経て現在に至る。電子回路シミュレータHSPICEの研究開発グループに所属。伝送線路解析、多端子網解析を専門にし、高速・高周波電子回路設計支援のための理論研究、実装開発に従事する。工学博士。
技術者としてその道を進む
大学院在学中にフリーモントでインターンをしたことがきっかけで修了後に入社、渡米してハワイ、オレゴンで勤務した後に再びベイエリアに戻ったという三堂さん。専門分野である半導体設計の研究開発の他、専門書の共訳などもてがける三堂さんにベイエリアでの暮らしぶりを伺いました。
三堂  哲寿さん

(Tetsuhisa Mido)BaySpo 1329号(2014/05/16)掲載

ベイエリアに住むことになったきっかけ
 大学院在学中の1998年10月、縁あってFremontにあったAvant! Corporationにて、2ヶ月間インターンをしました。その最後の日に社長Gerry Hsuからオファーがありました。指導教官の浅田邦博教授から「鉄砲玉になれ」と激励の言葉もあり、学位取得後に入社する契約を結んで帰国しました。当時の契約では、東京に研究開発拠点を作ることだったのですが、1999年の入社直前に、突如計画がハワイ拠点に変わりました。以降ハワイ、オレゴンに勤務し、途中Synopsys社による買収、就労権変更のための一時帰国を経て、2005年からベイエリアに住んでいます。

ベイエリアの印象
 米国は、地域によって気候や文化が大きく異なるところが、魅力の一つだと思います。雨がちのオレゴンから来ると、ベイエリアは晴れの日が多く、アウトドアをより楽しめます。また、異文化交流がより盛んで、ヒスパニック系の文化は多くの建物に色彩を与え、アジア・インド系の文化は豊富な食文化に貢献していると感じます。また、日本人コミュニティや日本食も充実しているので、日本人にとって住み易い地域だと思います。ただ、物価は他の州より高い印象を受けます。

自分の専門分野について
 半導体設計のために使う、回路シミュレータの研究開発をしています。半導体設計というと一般の方にはなじみの薄い分野ですが、近年はHDMIやUSBなど、家庭でよく目にするケーブルの中で、高速データ通信を行うための信号路解析も多く取り扱っています。

その道に進むことになったきっかけ
 大学院で電子工学科に進んだ時に、落ちこぼれだった私は、指導教官から「まずは一本の電線から勉強しなさい」と言われました。それ以来ひたすら電線の振る舞いを勉強をするようになりました。その当時は(おそらく今も)、トランジスタが半導体設計の花形だったのですが、いつのまにか一本の電線の重要度が増してきて、今ではすっかりその道にはまってしまいました。

英語で仕事をするということ
 最初の仕事が開発チームを作ることでしたので、入社後はいきなり英語で電話面接をする毎日でした。技術畑の私には冷や汗の連続でした。最近は英語での電話にもだいぶ慣れたと思います。今は、英語そのものよりも、話相手の多彩な文化観や宗教観を理解しようとすることの方が、より大切かなと感じるようになりました。

英語で失敗したエピソード
 毎日のことで思い出せないくらいですが・・・、初対面の相手が近況を「between jobs(失業中)」と遠慮がちに話しているのがわからず、かわいそうにも「それで、今何の仕事してるの?」と聞き続けたことがあります。

英語が100%ネイティブだったらどんな仕事に?
 技術者という立場上、英語を話せることが第一条件ではないので、実はあまり考えたことがありません。でも、英語が上手なら、学術論文等をもっと多く書けたんだろう、と思うことは多々あります。

あなたにとって仕事とは?
 日常のかなりの部分で、自分の科学的な興味を満たすことができる職業に就くことができました。なので、自分は幸せ者なのだろうと思います。その一方で、仕事と私生活との区別が曖昧になりがちな側面もあると感じています。

生まれて初めてなりたいと思った職業
 画家。

いまの仕事に就いていなかったら
 本当に画家を目指していたら、きっと挫折して、フリーターになっていたのではないかと思います。

現在、住んでいる家
 Sunnyvaleにある3ベッドルームのタウンハウスです。

乗っている車
 Jeep Liberty

睡眠時間・起床時間・就寝時間
 ソフトウェア開発という立場上、日によって変わることが多いです。ただ良く寝ます。アインシュタインは1日10時間睡眠だったそうなので、できれば1日9時間睡眠を目指しています。

休日の過ごし方
 だらっと過ごすのが好きです。あと、ゴルフの打ちっぱなし、ジム等で運動します。

好きな場所
 日本にいるときは、パチンコ屋さんで騒音の中1人ボーっと盤面を見ているのが、非日常的で気に入っています。もちろん、大当たりしたときの喜びは言うまでもありません。

最もお気に入りのレストラン
 家でご飯を食べるのが一番好きですが、最近はよく近所のFaultlineというブリュワリーに行って、スポーツを見ながら晩酌しています。

よく利用する日本食レストラン
 日本食で一番行くのは、ミツワでの買い物の道すがら寄る山頭火ラーメンです。

1億円当たったとして、その使い道
 なかなか想像できませんが、多分、日本で一人暮らししている義母に、バリアフリーの家を建てるのではないかと思います。で、あわよくば帰国して隠居。ちょっと足りないですかね。

日本に持って行くお土産
 See’s Candiesとワインが一番多いと思います。

日本に戻る頻度
 出張以外では年1、2度です。

日本からベイエリアに持って帰ってくるもの
 お米やお菓子その他食品がほとんどです。渡米時の荷物の重さは、いつもチェックインの限度ぎりぎりです。

現在のベイエリア生活で、不便を感じるとき
 目が悪く、夜の運転がほとんどできないので、東京のように電車網が充実していれば良いのにと思います。

最近日本に戻って驚いたこと
 最近はあまり驚いたことはないです。10年前くらいに驚いたのは、ある日気がつくと、電車の乗客が、みんな聖徳太子のように携帯電話(スマホになる前の)を持って、メールを打っているのを見たときです。

現在のベイエリア生活で不安に感じること
 幸い特にありません。

日本に郷愁を感じるとき
 盆暮れが近づいてくると、帰って温泉旅行に行きたい、トンカツを食べたい等、いろんな思いがつのってきます。

お勧めの観光地
 イエローストーン。

永住したい都市
 隠居暮らしは日本でしたいと思っています。

5年後の自分に期待すること
 今の自分を振り返って、後悔しないようなことになっていたらいいなと思います。

最も印象に残っている本
 『天国までの百マイル』(浅田次郎)。

最近読んだ本
 『采配』(落合博満)。

最も印象に残っている映画
 『博士の愛した数式』。

最近観た映画
 『ロボジー』。

自分を動物にたとえると?なぜ?
 かつて流行った動物占いの本によると、自分は狼だそうです。狼かどうかはさておき、「回る洗濯機を何時間でも眺めていられる」とのこと。実に的を射ていると感じました。

座右の銘は?
 「世界一のものを創る」。

(BaySpo 2014/05/16号 掲載)

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