ビジネス編  Vol.76
宇田川 博文さん
Workdayプロダクトマネージメントディレクター、HCM Japanプロダクトリーダー。東京都出身。東京大学情報工学科博士課程に在学中に財務会計ソフトウェア「大番頭」の開発会社ミルキーウェイの開発担当役員に就任。ミルキーウェイを米国Intuitに売却したのをきっかけに1997年に渡米。1998年にPeopleSoft入社。HCM製品の国際化の開発責任者を務め、日本をはじめ、インド、タイ、マレーシア、中国、ブラジル、アルゼンチン向けのHCM製品の新規開発を指揮。世界約20カ国のHCM製品開発部門を統括。2014年からWorkdayで再び日本向けのHCM製品開発を指揮している。サンフランシスコ・ジャパンクラブ副会長。
世界の企業を支えるシステムを作る
人材を人財(たからもの、資産)として、企業が社員を大切に守り育てるための総合管理システム開発に取り組み、仕事を通じて日本のためになることがしたいという自分の思いを体現している宇田川さん。現在プレザントン在住の宇田川さんに、ベイエリアでの暮らしぶりなどを伺いました。
宇田川  博文さん

(Hirofumi Udagawa)BaySpo 1335号(2014/06/27)掲載

ベイエリアに住むことになったきっかけ
 1996年に役員を務めていたソフトウェア開発会社を米国企業に売却したのを機に、米国本社で働くために1997年にサニーベールに移住しました。事情があってその会社を半年ほどで退職してPeopleSoftに入社しました。2000年にPeopleSoftの本社があるプレザントンに移りました。

自分の専門分野について
 人財管理(HumanCapital Management:HCM)システムの開発が私の専門分野です。人材管理(Human Resource Management)を核に採用(Recruiting)、才能管理(Talent Management)、就労時間管理(TimeManagement)、給与(Payroll)、研修管理(Learning Management)などを統合したシステムです。おもに従業員5000人以上のグローバルな大企業が採用するシステムを開発しています。日本語では人事管理システムと訳されることが多いのですが、「人事管理」という日本語は適切ではありません。入社とか転勤とか退職とか社員にかかわる事柄を管理するだけのシステムのように見られるからです。「人材管理」という名称でも不十分です。社員を資材として、時に使い捨てのモノとして扱うシステムのような印象になってしまいます。私達が開発しているのは、社員を財(たからもの)として大切に守り、育て、活用するためのシステムです。残念ながら日本企業にはHCMシステムが正しく普及していません。終身雇用制度が機能していた時代であれば、こうしたシステムは不要だったのかもしれませんが、その制度が崩壊して少子化によって労働者人口が減少している日本でこそ、企業がきちんとした人財戦略をもつことが重要なのですが。PeopleSoft(のちに買収されてOracleになりました)では、HCMシステムの国際化の開発責任者をしていましたが、東日本大震災をきっかけにもっと日本のための仕事ができないかと真剣に考えるようになりました。昨年Workdayが東京に営業拠点を開いて日本でのビジネスを始めたので、今年PleasantonにあるWorkday本社に入社し、日本向けのHCM製品の開発を指揮しています。

その道に進むことになったきっかけ
 大学院在学中に大学の近所にあった小さなソフトウェア開発会社でアルバイトを始めたのがそもそものきっかけです。しばらくしてその会社の開発担当役員に就任しました。パソコンの将来性に惹かれたからです。大学では音声認識や機械翻訳を研究していました。英語が大の苦手だったので、スターウォーズに登場するC―3POのような通訳ロボットを作るのが夢でした。ところが大学院でエンジニアリングの研究をしていると、英語の文献をたくさん読まなければならないですし、国際学会で英語で発表しなければならないので、通訳ロボットを作る前に英語を勉強せざるを得なくなり、夢敗れたこと(笑)も、自分の進路を変更したきっかけかもしれません。

英語で仕事をするということ
 仕事では英語しか使わないので、英語で仕事をするということはごく自然なことです。ただし流暢な英語で日常会話ができる訳では決してありません。語彙は仕事にかかわるものに限られていますし、ソフトウェア・エンジニアは英語がネイティブな人のほうが少数派です。自分よりよっぽど英語が乱れているインド人や中国人がしっかりと自己主張をしている姿を見ていると勇気付けられ、彼らを見習っています。要は自分が伝えたいことが頭の中で理論的に整理できるかどうかということだと思います。日本語は構造的に論旨が曖昧になりがちですので、そのハードルを越えられれば英語でのコミュニケーションは何とかなると思います。

;英語で失敗したエピソード
 失敗したことに気付かないほどたくさん失敗していると思います。ソフトウェアの開発ではユーザー・マニュアルなどは専門のテクニカルライターが書くのですが、プログラムが発するエラーメッセージなどは、私のようなネイティブでないエンジニアが直接書くことが多いので、エラーメッセージの英語が変だとユーザーから指摘されることがよくあります。

英語が100%ネイティブだったらどんな仕事に?
 英語しか話せないというネガティブな意味でとらえれば、もっと平凡な仕事に就かざるを得なかったかもしれません。母国語がきちんと話せて、英語という外国語を操ることの難しさを理解して、英語がネイティブでない人達と良好なコミュニケーションができていることが企業の国際部門でうまく仕事が出来てきた1つの理由だと思うからです。世界中の仕事仲間と会議をすると、英語がネイティブな人が会議に参加していないほうが、会話がはずむようなときさえあります。これからは英語がネイティブな人達がネイティブでない人達にも、わかりやすい平易な英語を話すトレーニングを受ける必要がでてくるでしょうね。

あなたにとって仕事とは?
 家族の生活を経済的に支えるという意味でも仕事は重要ですが、自分達が作ったシステムが世界中の企業の活動を支えているという自負があります。特に給与システムは会社のお金ではなく社員のお金を扱うシステムです。遅れや間違いは許されません。今のシステムはクラウド型なのでどこからでも問題には対処できますが、以前オーストラリアで年末調整計算にトラブルが発生して、クリスマスにエンジニアをシドニーまで出張させたことがあります。チームメンバー全員が同じ思いで仕事をしています。

いまの仕事に就いていなかったら
 大学院在学中にソフトウェア会社の役員に就任していなければ大学の教員になっていたと思います。

乗っている車
 せっかくアメリカに来たので、ずっとアメリカ車(クライスラー等)に乗っていたのですが、大震災後、復興支援と日本企業の応援の思いで日本で作っている日本車(インフィニティとレクサス)に乗り換えました。それぞれに日産とトヨタの個性が感じられて良い車だと思います。

休日の過ごし方
 妻が音楽スタジオを経営していて土曜日も仕事をしているので、土曜日は友人とのゴルフや家の片付けなどに充てています。日曜日はできるだけ妻と過ごすようにしていますが、夕方からはアジアと仕事を始めなければならないので、ゆっくりディナーというわけにはいかないのが悩みです。子供たちが離れて暮らしているので年に何度かは家族で旅行をするように心掛けています。去年はバルセロナとメキシコのプラヤ・デル・カルメンへ行きました。

現在のベイエリア生活で、不便を感じるとき
 どこへ行くにも車を出さなければならないこと。プレザントンの周辺では日本の食材が手に入りにくいこと。

現在のベイエリア生活で不安に感じること
 日常生活で不安に思うことはありませんが、災害が発生したり大きな事故や事件に巻き込まれたときに在留外国人としてきちんとしたサポートが受けられるかどうかが不安です。家族全員が日本人ですので、こちらに親類がいるわけでもなく、プレザントンには日本人も多くありません。そんな思いもあって、昨年からジャパンクラブで副会長を務めています。ジャパンクラブは19年前の阪神淡路大震災を機に災害時の相互扶助を目的に設立されました。ベイエリアに暮らす日本人が各自の経験や能力を活かしてお互いを助け合う会として、様々な親睦会や講演会などを開いています。

5年後の自分に期待すること
 5年後も日本企業の人事部を人財部へ変革していく活動を続けていることを願っています。若い人達が日本企業に入社することで世界で通用するスキルを磨くことができるようになって欲しいと思います。企業は長く勤めるかどうかわからない社員であっても大切に育てて活用し、彼らのスキルアップを支援する。社員は短期間で職務に精通して事業に貢献する。こういった仕組みを日本の大企業に根付かせたいと思っています。

座右の銘は?
 「変えられるものを変える勇気を持ち、変えられないものを受け入れる平静さを持ち、変えられるものと変えられないものを見極める英知力を持つこと」。最初のアメリカ人の上司から贈られた言葉を意訳しました。以前、自分の子供たちにこの言葉を贈ったら、宗教に目覚めたの? と笑われましたが、これは私の行動規範です。

(BaySpo 2014/06/27号 掲載)

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