一般編  Vol.269
ン 周永子さん
香川県出身。大学院で上級研究データアナリストとして働く一方で、2017年にサンフランシスコに「Sue’s Kitchen」をオープン。地元紙、San Francisco Chronicleに掲載されるなどして一躍人気店に。ジョンズ・ホプキンス公衆衛生大学院修士。夫と3人の子供の5人家族。フリーモント市在住。
意志のあるところに道は開ける
大学院で上級研究データアナリストとして働く傍ら、2017年にサンフランシスコのSoMA地区に手毬寿司とお抹茶のデザートのお店「Sue’s Kitchen」を開業。3児の母として、研究者として、レストラン経営者として、ベイエリアで活躍している周永子さんに暮らしぶりを聞きました。
ン 周永子さん

(Sueko Ng)BaySpo 1557号(2018/09/28)掲載

ベイエリアに住むことになったきっかけ、渡米した年
30歳を前に人生をやり直そうと思い、2006年に渡米しオハイオ州立大学に編入しました。その時に出会った主人が仕事の都合で先にベイエリアに移り、私自身は大学院を卒業後の2010年に移ってきました。

ベイエリアの印象
 日系のスーパーマーケットや飲食店も充実していて、食いしん坊の私には「本当にありがたいな」という印象を持ちました。それまではスーツケースをもって月に一度、一時間近くかけてアジア系のスーパーに買いだしに行くような生活でした。

自分の専門分野について
 ボルチモアにあるジョンズ・ホプキンス公衆衛生大学院で、研究の仕事をしています。具体的には、医療や医療政策に関わる科学的証拠をまとめる「コクラン」という組織のメソドロジストとして、試験がどのように行われたかを評価し、データをまとめ解析して論文に仕上げていくお手伝いをしています。また、コクラン編集部に寄せられた論文を掲載前にレビューをすることもしています。

その道に進むことになったきっかけ
 もともとは、母子健康を栄養面から支えていくための勉強やプロジェクトに関わらせてもらっていたのですが、大学院2年目だった2009年にスイスにあるWHO(世界保健機構)本部でインターンをしていた時分に、「コクラン」や「システマティック・レビュー」という言葉を多く耳にするようになり、これについてもう少し学びたいなと思いました。ホプキンスにUSコクラン・センターもあり、その授業もあったのでアメリカに戻り受講していたところ、ちょうど日本語の論文が読める人を探していたということもあり、働かせてもらえることになりました。卒業後ベイエリアに移る際も、また昨年レストランを始める際も、続けたい意思を伝えると、「いいよ!」と承諾してもらえて、今も細々とですが続けさせてもらっています。

英語で仕事をするということ
 渡米後、英語で学んだ専門分野が仕事に直結しているので、なんとか英語で仕事ができていますが、それ以外の日常会話などになると英語の語彙の幅が広くて大変なので、黙って貝になるか愛想笑いして乗り切っています(笑)。

あなたにとって仕事とは
専門的な知識や経験を積み上げていく研鑽の場であると同時に、仕事を通じて社会の現状や動向に触れ、より社会と繋がっているという認識を高めてくれます。大変なこともありますが、それを乗り越えた時にそれまでとは違った景色を見せてくれますし、次への自信に繋がります。そして共に乗り越えた仲間とは強い絆が生まれます。仕事を通して、ロールモデルであったり、尊敬したり、畏敬の念さえ抱くような素晴らしい方々に出会う機会を多く得ました。彼らから学ばせてもらったことは、私の人生の財産と呼べるものだと思っています。

いまの仕事に就いていなかったら
 この質問を自問自答して、2017年に手毬寿司とお抹茶のデザートのお店「Sue’s Kitchen」をサンフランシスコのSoMA地区にオープンしました。SoMAという開発が著しい場所柄、世界のイノベーションの一端を担っているプロフェッショナルな方々が多いので、忙しい仕事の合間、少しでも日本の家庭的な味とおもてなしで憩いの場になれたらと、日本人の女性スタッフ皆でがんばっています。開店から1年が経ち、常連さんもできて楽しいおしゃべりや笑い声がお店に響くとき、お店をはじめてよかったなとつくづく思います。輝いているお客さんと、よく気が付いて頼れる得難きチームの皆が「Sue’s Kitchen」の自慢です。

乗っている車
母が愛知県の豊田市出身なので、実家では父がいつもトヨタ車に乗っています。私もその影響でトヨタ車、プリウスCに乗っています。

休日の過ごし方
 子供達が日本語補習校に通っているので、土曜日は補習校へ。日曜日はファーマーズ・マーケットに行ったり、庭でご飯を食べたり、シャボン玉やトランプで遊んだりが日課ですか。昭和ですね(笑)。季節によって、イチゴやサクランボ、ブルーベリーピッキング、栗拾いなどに出かけています。

よく利用する日本食レストラン
 美味しい魚や会席料理が食べたくなればメンロパークにある「Mitsunobu」にお邪魔しています。子供たちのお弁当用に、日本のきめの細かいふわふわの白いパンでサンドイッチを作りたいので「アンデルセン」にもよく行きます。

日本に持って行くお土産
 友人のWendyが経営していて、同じSoMA地区にある「Socola」のチョコレート。ドリアンが入っているのが特に話題性もあって好評です。あと、キッチンスポンジに洗剤入れが取り付けられているソープ・ディスペンサー・ディッシュ・スポンジです。アメリカではここまで手抜きするのかとネタにされますが、結構便利で毎度替えをお願いされるので、お土産に持って帰っています。

日本からベイエリアに持って帰ってくるもの
 サランラップです。アメリカのものはどうも切れ味が悪いのですが、日本のものを使うと爽快です。あとは、讃岐出身なのでうどんは欠かせません。

現在のベイエリア生活で、不便を感じるとき
 西海岸で日本に近いとはいえ、ここはアメリカ。日本の家族や親戚、友人の一大事にすぐかけつけられない時、外国に住む不便さを痛感します。

お勧めの観光地
 未だ観光地にほとんど行けていませんが、主人がスタンフォードに勤務しているので、主人が週末所用で行くときは同行して、待っている間キャンパスを子供達と散策したりします。正門からの道は圧巻です。近くのスタンフォード・ディッシュ・ループ・トレイルは子供達と歩くにもちょうど良く、街も一望できてお勧めです。

5年後の自分に期待すること
 幸せは健康から。健康であれば十分です。あと、現在お店の営業時間が平日の昼だけなので、時間外は皆さんにワークショップなどを実施する場所として活用してもらえないかなと考えています。周囲に手芸や写真など多才な日本人の方が多いので。ご興味ある方はご連絡を待っています!

最も印象に残っている本
 藤原てい著『流れる星は生きている』です。子育てに仕事、トラブルで挫けそうになっていた時に母が送ってくれました。

1億円当たったとして、その使い道
 あれだけ、仕事は生き甲斐です的な発言をしておいて、1億円当たったらあっさり辞めたりして(笑)。

座右の銘は
 「Good listener」であれ。Global Healthの父ともよばれた方に生前インタビューさせてもらったことがあるのですが、後輩へのメッセージをというお願いに、「専門的な知識と経験を積み上げるというほかに、Good listenerであってほしい」とおっしゃっていました。そして「Good listenerとはただ聞くだけではない、相手や現状が何を求めているか、適切で的確な質問を投げかけられることだ」と。母として、妻として、娘・嫁として、研究者として、レストランのオーナーとして、現状や相手の心の声に耳を傾け、寄り添いながら自分なりにできることを模索していきたいと思っています。

(BaySpo 2018/09/28号 掲載)

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