文化芸能編  Vol.25
蔵重伸さん
 高知県出身。幼少の頃から茶道と華道に親しむ。結婚後ニューヨークへ移り、東京銀行ニューヨーク支店に勤務。帰国し、池坊研修学院に在籍し4課程に設けられた最高賞「橘賞」を全て受賞する。1986年より、外務省や華道家元池坊から指名を受け、日本文化紹介のため世界延べ50カ国へ赴く。2010年3月まで京都市の池坊短期大学で教授、同志社大学その他で非常勤講師として教鞭をとる。東京国立博物館、ドイツ国立博物館、リートベルグ博物館、秋吉台国際芸術村等で講演、作品を展示。
気持ちをかたちに! 心を花に! 思いやりを「いけばな」に!!
 昨年5月に渡米し、池坊アメリカ事務所のHead Professorならびに所長として池坊のいけばなを北米、南米、一部のヨーロッパにいままで以上に広めることを使命としている蔵重伸さん。「心」は誰にでも見えないけれど、「心づかい」は見える。「思い」は見えないけれど、「思いやり」は誰にも見えると語る、蔵重さんの花に対する情熱を聞いた。
蔵重伸さん

池坊アメリカ事務所 Head Professor(Nobu Kurashige)BaySpo 1167号(2011/04/08)掲載

池坊のベイエリア支部での活動は?
 池坊は来年で550周年を迎えます。1462年寛政二年京都•東福寺の禅僧、雲泉対極の書いた文献『碧山日録』(へきざんいちろく)により、池坊専慶が「華道中興の祖」といわれ、以来幾多の厳しい次代を超えて今日になりました。人から人へと心と技を伝承した結果だと思います。現在アメリカ、カナダ、アラスカ合わせて約40支部と3グループあり、私は先達者の2代目となります。何事も初代はご苦労が多く、始めは石ころや、岩山があり、そこにレールを引くような大変な作業や心遣いが有ったと思います。今後はそのレールを大切に「温故知新」の精神で、協力しながら日本の文化をアメリカにより拡大していく時代です。
 ここにはご存知の方も多いと存じますが、数奇屋風のショーウインドーに毎週先生方が花を飾リ、日本の文化をサンフランシスコのベイエリアの人に42年間伝えています。。繋いできた心、つなげた想い、いま一瓶に心こめて、これを未来につなぎたいですね。先生たちは教会、お寺、教育機関その他で教えています。
 先月は津波や福島の原発の件で悲惨な被害に驚き心痛めていますが、一日でも早い回復を心から祈っています

蔵重さんがいけばな、茶道の道へ入られたきっかけは?
 母が花茶の先生でしたが、強要されたことはありませんでした。40年前、結婚してニューヨークにいた時、隣人で花屋のイタリア人にいけばなとフラワーアレンジメントの違いなどの説明を求められ、上手く説明できず悔しい思いをしました。海外で、自分が日本人だと強く意識する機会が多く有りました。それが強いきっかけで「本物ををやりたい」と思いました。

蔵重さんにとって「生き方」とは?
 聖徳太子の教えで「和を持って尊しとなす」があります。花は栽培後市場に出、我々の手に入りますね。命を再度吹き込み、新しい環境に和するように生かすのがいけばなの目的でもあるのです。お花を生かし、人をも生かすことであります。その花だけが美しいのではなくて、その周りが明るくなって、和が広がっていきますね。孔子の言葉に「天網恢恢疎而不漏」「天網恢恢、疎にして 漏らさず」頭に置いて誰が分かってなくても正しいことをして行こう。「Never Give Up Try Harder!」が私の生き方です。

蔵重さんにとって「美」とは?
 ハーモーニーです。「美」と一口に言っても人により価値観の差があると思いますが、文化や個人の主観の枠を超え、人を感動させるものが「美」といえますね。見ることができるものだけでなく、人と人、花と空間の和は同じで、一本の花からの「一花一会」も美だと思います。

好きな花は?
 燕子花(かきつばた)です。菖蒲(あやめ)は猛々しく男性的ですが、燕子花はエレガントで杜若(かきつばた)とも書き、尾形光琳の屏風絵でも有名ですね。紫の花が好きで、あやめ、藤、黒百合も好みです。

ハイテク業界で花が人気だそうですが
 伺っています。生けあがった姿もさることながら、そのプロセスが好まれています。自然と向き合って、メディテーションにも良いと思います。植物を通して自分や、人の姿を見たり、自然から学ぶことがあるように思われます。

世界50カ国以上でいけばなを教えたと聞きました
 日本交流基金や外務省、池坊本部からの派遣でした。蔵重伸が個人で行っても何てことないんです。華道家元の池坊専永宗匠からのご推薦で派遣ということで、価値があると存じます。国により文化や習慣が異なりますが花を愛することには国境がありません。環境と共に生きる和が大切です。絶壁で、落ちそうに生えている松の木が、太陽に向かって必死に上向いて生きる姿。ここから学ぶことは大切なことです。まさに温故知新です。「和魂洋才」の気持ちでアメリカにいけばなを伝えていきたい。

ベイエリアの印象は?
 色々な顔を持ち、魅力のある所です。サンフランシスコから積極的に日本文化の情報を発信したいと思います。日本からは大勢の関係者に期待され送り出されて重責ですが、がんばりたいと存じます。

英語で仕事をするということ
 生活に関しては違和感もなく困ることはありませんが、もっと経験を積み、花の専門家、経営者としてアメリカで通用するように努力いたしたいと思っています。

生まれて初めてなりたいと思った職業
 キュリー夫人のような研究者か政治家か建築家でした。

いまの仕事に就いていなかったら
 PROFESSIONAL HOMEECONOMICS ENGINEERつまり専業主婦です。でも主婦では終らず、きっと政治家ですね。人様に役に立つ、きれて、人に優しい政治家。

睡眠時間・起床時間・就寝時間
 アメリカに来て多く寝るようになりました。寝るのは午前2時で起きるのは朝7時頃。

休日の過ごし方
 やることが一杯です。美術館、図書館に行きます。友人と物づくりをして、楽しく過ごすのも好きです。沢山顔がありますね。

ベイエリアで好きな場所
 ミルブレーの丘から見える飛行場が好きです。飛行場を見下ろして、私は何の為に渡米したを再確認します。「ミッションを持ってきたのだから、がんばらないと」と丘に登るたびに思います。色々と上手くいかない時に涙するのも笑う場所もここです。ベイエリアが一望できる丘です。サンフランシスコ国際空港は私の「第2の花人生」の出発地点です。ジェット機の発着を間近に感じ、雨や霧の日もありますが、遥か向うに虹も見えます。いつの日か全米の皆さんに喜ばれてここから飛び立ちたいと思っています。

最もお気に入りのレストラン
 フェリープラザのDELICA。女性が寿司を握ってがんばっているんです。女性は寿司が握れないと信じていたのですが、反面、女性が男性と同じことができないことはないと思っている私です。あの味が食べたいなと思ってよく行きます。

1億円当たったとして、その使い道
 いけばなの普及のために使います。ニューヨークのMetroportan美術館のロビーにある花のように、過去の遺産と今を結ぶいけばなを飾れる基金でも作り、常に公共の場にお花を置くことができればいいですね。

現在のベイエリア生活で不安に感じること
 何も不安はありません。極楽トンボで順応性があると思いますし、日本の本部にはEメールやSKYPEで相談や指示が仰げるので不安はありません。が、不便はあります。車がないことは不便です。アメリカで生きることは強くなければならないことですね。日本式の遠慮や思いやり、謙虚さは通用しないことも学びました。

永住したい世界で都市
 前はニューヨークでしたが今はサンフランシスコになりそうです。

5年後の自分に期待すること
 「アメリカに来てもらって良かったね」と皆に喜んで頂ける結果を期待。長い間、この地で努力してこられた関係者に敬意を表し、協力を得て全力投球で、日本文化、いけばなの更なる普及のため努力を惜しまない自分に期待。

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■インタビューを終えて
 サンフランシスコ日本町にある池坊の事務所では毎週土曜日には必ず、新しい生け花が展示されています。事務所が設立されてから40年以上続いているといいます。池坊のアメリカでの活動をさらに活発化させるべく渡米された蔵重さんの情熱もまた、何十年と続いています。ぜひショーウインドーに並ぶ生け花を拝見し、花が教えてくれる何かを感じ取ってみて下さい。

(BaySpo 2011/04/08号 掲載)

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