ビジネス編  Vol.84
石川 洋人さん
Takeoff Point 執行役社長。大阪大学非常勤講師。1978年、東京生まれ。慶應義塾大学卒業後、JPモルガンに入社。その後ソニー(株)に入社し、海外事業を担当。ミシガン大学でMBA取得後、ソニーのCEOスタッフとしてソニーの構造改革を推進。2015年にTakeoff Pointを設立。
やりたいことを通じて、社会に価値を生み出す
日米のスタートアップや新規事業を支援する会社を経営する傍ら、ベイエリアの教育・就労支援にも携わり、また日米の大学で非常勤講師として教鞭を執る石川さん。「新しいものを生み出す仕事をしていきたい」と話す彼に、ここでの暮らしについて伺いました。
石川 洋人さん

(Hiroto Ishikawa)BaySpo 1686号(2021/03/19)掲載

ベイエリアに住むことになったきっかけ、渡米した年
 ベイエリアには、2015年の秋に仕事の関係で東京から引っ越してきました。ベイエリアでの生活は6年目になりますが、アメリカでの生活はもう22年になります。アメリカは、父親の仕事の関係で幼少時代をニューヨーク、アトランタ、ヒューストンで過ごし、大人になってからはニューヨークで働き、ミシガンで大学院に行き、ベイエリアはアメリカで住む5つ目の都市になります。

ベイエリアの印象
 日本で関東と関西がよく比較されるように、アメリカの東海岸では北部と南部の人や考え方、生活スタイルなどの違いがよく比較され、ベイエリアは、色んな意味で東海岸の北部と南部の「中間」という印象をもっています。
 例えば、ニューヨーク(北部)の人はテキサス(南部)の人に比べて、歩くスピードも話すスピードも速く、北部と南部では時間の流れる速さが違うと一般的に言われていますが、ベイエリアはちょうどその「中間」。また、人間関係が「ドライ」なニューヨーク(北部)に対して、Southern Hospitalityという言葉があるよう「フレンドリー」なアトランタ(南部)と言われていますが、これもベイエリアはちょうどその「中間」にあたる印象を持っています。
 しかし、ベイエリアが「中間」ではない点は、アジア人の多さです。特にアトランタで生活していた時は、アジア人の人口比率は5%にも満たなかったので、どこにいても「アウェー感」のようなものを感じていたのですが、ベイエリアでは、どこにいってもアジア人がいる感覚で、引っ越ししてきたばかりの頃は「ここってアメリカだっけ?」と不思議に思うことがよくありました。

自分の専門分野について
 2015年にソニー(株)の出資を受けてTakeoff Pointという会社をベイエリアで立ち上げ、ソニーをはじめ、日米のスタートアップや一般企業の新規事業に対するビジネス支援のサービスを提供する会社をやっています。また、自分達でも、新しいビジネスの立ち上げにチャレンジしており、具体的には、まだビジネスとしては活用されていないソニーの技術を使って、ベイエリアにいる恵まれない青少年たちに対する教育支援と就労支援を提供するプラットフォーム作りにも、行政機関やNGOとタッグを組みながら注力しております。
 また、Takeoff Pointでの仕事とは別に、ベイエリアにある複数のアクセラレーターで起業家を支援するアドバイザーを務め、さらにアメリカと日本にある大学と高校で、非常勤講師、特別講師として起業家教育・キャリア教育にも携わっています。

その道に進むことになったきっかけ
 Takeoff Pointを立ち上げる前までは、JPモルガンという投資銀行とソニーにて、経営状態が悪化した会社や事業の経営再建や構造改革、事業の売却M&Aなど、感覚的には「マイナスからゼロ」を目指す仕事ばかりやっていて、常に「ゼロからプラス」と、何か新しいものを生み出す仕事にチャレンジしてみたいと強く思っていました。そして、Takeoff Pointを立ち上げたことで、新しいビジネスを作るクライアントを支援する仕事から、自分たちでも社会課題を解決するビジネスの立ち上げにも取り組んでいて、難しいながらも挑戦しがいのある仕事に携わっています。

あなたにとって仕事とは?
 ベイエリアで今の会社を立ち上げてから「仕事」の考え方が大きく変わりました。それまでは、会社から与えられるミッションに対して結果を出して、それを会社に評価されてお給料をもらうことが「仕事」だと、本気で思っていました。恥ずかしながら「ザ・サラリーマン」ですね(笑)。そして、どんな難しいミッションにも対応出来るように常に全力で取り組み、勉強して資格をとったり、留学してスキルアップしたり、また、会社のミッションがやり易いように、会社に求められる働き方を常に意識して行動していたと思います。逆に言うと、「自分は何をしたいか?」や「何故やるのか?」というようなことは、あまり考えて仕事をしてこなかったような気がします。
 しかし、ベイエリアで今の会社を立ち上げてからは、ミッションは、与えられるのではなく自分で探して考えなければいけなくなり、評価も、会社のマネジメントではなく社会に評価される事業をやらなければならなくなり、初めて「自分は何をしたいか?」や「何故やるのか?」ということを真剣に考えるようになりました。そして、自分のやりたいことを通じて、社会に価値を生み出すことが出来れば、それは「仕事」なのだと思うようになりました。

いまの仕事に就いていなかったら
 今の仕事に就いていなかったら、恐らくずっと「会社人」として働き続け、あっという間に定年退職を迎えていたような気がします(笑)。
 5年前に今の会社を立ち上げた時、実は最初全くうまく行きませんでした。ほとんど売上を上げることが出来ず、お金がなくて会社を何度も潰しそうになり、自暴自棄になった時もありました。
 それまでは、会社の中で仕事をして、その対価としてお給料をもらっていたのに、会社を一歩出てみたら、社会には自分の仕事に対してお金を払ってくれる人がほとんどいないことに気付き、自分は、会社の中で評価されていた「会社人」だけであって、本当の意味での「社会人」には成りきれていなかったことを痛感させられました。
 それからは、どうやったら自分が「社会」に役立てるかを第一に考えながら行動するようになり、ベイエリアの社会課題の解決を目的としたプロジェクトを立ち上げたり、その経験を通じて得たノウハウや経験を「教育コンテンツ」として起業家や学生に積極的に伝えたり、少しでも「社会」に価値を生み出すことを、自分なりに意識して行動するようになったと思います。

5年後の自分に期待すること
 まずは、今のTakeoff Pointを、一人でも多くの人に『Appreciate』されるような良い会社に発展させていきたいですね。そして、日本の事業をアメリカで発展させたり、逆にアメリカの事業を日本で発展させたり、自身の経験や強みを生かした上で、日米の橋渡し役になれるような仕事が出来たら嬉しいです。そして、そういう活動を通じて、Takeoff Pointの発展が、世の中の発展につながるようなことが出来たら、それ以上に幸せなことはないと思っています。

英語で仕事をするということ
 私は、幼少時代から大人になってからも、常に日本とアメリカの間を行ったり来たりして過ごして来たので、言語において英語と日本語のどちらかが得意・不得意はなく、英語で仕事をすることに対しても、特別な思いは有りません。しかし、こう言うと聞こえは良いかも知れませんが、実際は、英語も日本語も中途半端な状態で、どちらでもスムーズに会話は出来ても、どちらも分からない言葉や自分の思いをしっかり伝えられないこともよくあります。(もしかしたら言語力ではなく、コミュニケーション能力の問題かもしれませんが)
 さらに自分の中では、トピックによって英語の方が得意だったり、日本語の方が得意だったりすることもあり、また、語学力そのものも、職場や生活環境によっても、常に上がったり下がったりしていると思います。

英語で失敗したエピソード
 英語で失敗したエピソードは沢山ありすぎて、数えきれません。英語はネイティブに近いレベルだと思うのですが、未だに知らない言葉や言い回しは沢山あって、さらに単純に相手の言っていることが聞き取れなかったり、言葉のニュアンスを察することが出来なかったりすることはしょっちゅうあります。しかし、それは英語だけでなく、日本語でも同じ頻度であることです(笑)。だから、英語で何か失敗してもあまり気にしていませんが、常に英語力は高めたいと思っているので、分からない英語があればすぐに調べて記録したり、使ったことがない言い回しは、あえて頻繁に使うようにしたりして、常に英語力アップは意識しています。

現在のベイエリア生活で、不便を感じるとき
 ベイエリア生活での不便は、頻繁に起こる停電です。風が少しでも強い日には、山火事防止と電力調整を理由にPG&Eによって計画停電が行われ、さらに何もない時でも、1年に2、3回ぐらいは停電が起こります。
 「イノベーションの聖地」と言われているベイエリアなのに、先進国とは思えないこの電力事情の悪さには本当に驚かされます。

座右の銘は?
 「5K」の気持ちを大切にするようにしています。「5K」とは、好奇心、観察力、行動力、向上心、そして謙虚さそれぞれの頭文字であり、これらを意識することで、仕事もプライベートも楽しく過ごしていけるような気がします。

(BaySpo 2021/03/19号 掲載)

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