ビジネス編  Vol.65
原島朋幸さん
1972年生まれ。神奈川県出身。大学卒業後NTTエレクトロニクスに勤務後、デジタルハリウッドに通いCGを学び、CMやアニメーション制作に携わる。2001年に渡米。サンフランシスコのAcademy of Art UniversityでMFAを取得後、ドリームワークスに就職。キャラクターアニメーターとして活躍する。
アニメーターはキャラクターに命を吹き込む仕事
数々の名作を世に送り出すハリウッドきっての映画会社「ドリームワークス」。「シュレック」や「マダガスカル」などお馴染みの作品をはじめとするCGアニメ映画が、レッドウッドシティにあるCGアニメーション部門で制作されている。ここで、キャラクターアニメーターとして活躍するのが原島朋幸さんだ。原島さんに仕事や暮らしぶりについて話を聞いた。
原島朋幸さん

(Tomoyuki Harashima)BaySpo 1139号(2010/09/17)掲載

アニメーターになったいきさつ
 日本では大学を卒業後、一度NTTのグループ会社に2年間勤め、デジタルハリウッドというCGの学校に通ってから、その後CMやゲーム関連のCGの仕事をしていました。学校でCGを勉強していたときに、ショートフィルムを何本か作ったんですが、その時アニメーションが一番面白かったんですね。特に自分で作ったキャラクターがいきいきと動き出すのを見るのがすごく楽しかったんです。その頃からいつかアメリカのアニメーションスタジオでキャラクターアニメーターとして働きたいなと思うようになりました。それで、まずは語学学校にでも通いながら仕事を探そうと思って、2001年にベイエリアに来たわけですが、ちょうどこの時が9・11テロの直後で雇用状況が悪く、家族のサポートもあってサンフランシスコのアカデミー・オブ・アートでマスターのコースに入ることにしました。卒業前にLAのスタジオで半年くらいインターンをして、卒業後、最初はLAのドリームワークスで1年ちょっと働いてから、今はレッドウッドシティのキャンパスで働いています。

なぜ最初からベイエリアに?
 ベイエリアには知り合いがいたというのもありますが、映画ってやっぱりカリフォルニアなんですよね。LAはもちろんですが、アニメーションの場合はピクサーやルーカススタジオがベイエリアにありますし、アカデミー・オブ・アートでは、通称ピクサークラスといって、ピクサーのアニメーターが講師として教える授業もありました。

これまで原島さんが関わった作品は?
 「Bee Movie」や「マダガスカル2」、「How to train your dragon」などに参加してきました。現在は11月に公開の「Mega Mind」を制作している最中です。アニメーションの部分ではちょうど今が追い込みの時期です。

キャラクターアニメーションの仕事はどんな風に進んでいく?
 カメラワークが切り替わるまでを1ショットというんですが、仕事はショット単位で割り当てられていくんですね。アニメーターは、自分の担当するショットに出てくるキャラクターをコンピュータの中でパペットのように動かしていくことで、命を吹き込むわけです。特定のキャラクターの担当が決まっているわけではないので、そのキャラクターがどういうことを考えていて、どんな表情をするかといった共通の認識をみんなで持つことがとても大切になってきます。例えば、「How to Train Your Dragon」には数種類のドラゴンが出てきますが、それぞれのドラゴンの特徴やどんな動物に近いのか、といったベーシックな認識を統一させるためのクラスが開かれたりもします。基本的には技量や得意分野によってキャストされていきますが、やっぱり自分でやってみたいシーンなども出てくるんです。最初は日本人的に、「あれがやりたい、これがやりたい」と言うのはよくないんじゃないかと控え目だったんですが、「希望があるならリクエストした方がいいよ」と聞いてから、僕も希望をどんどん伝えるようになりました。仕事場としても「やらせてほしい」と自分から言う人がたくさんいた方がいいですよね。

苦労するのはどんなとき?
 途中でセリフが変わって作り直し、なんて時にはガクっときます(笑)。あと、今回は、前作のスタイルからアジャストするのに少し時間がかかりました。いくらパフォーマンスがよくても、監督が求めるものをうまく探って理解しないと、ダメ出しが出てなかなか進まないんですよ。「あの映画のあのシーンみたいな」って表現されることもよくあって、もちろんそれでわからない時もありますけど、アメリカでアニメーションを勉強した経験が、結局こういった時の理解に役立っているなと思います。

英語で仕事をするということは?
 監督に直接自分の担当部分を説明して、フィードバックを貰うことが多いので、当然英語は使います。完璧な英語を喋れる訳ではないですが、なるべく簡潔に自分の言いたいことを伝えるように努力しています。聞いて意味のわからないことや、聞き取れなかった場合は、できるだけその場で聞いて、ミスコミュニケーションがないようにしています。

「働きやすい会社」全米6位(フォーチュン調べ)にランクインしたドリームワークスですが、その働き心地は?
 面白いのは、制作するアーティストと、いかに映画を期間内、バジェット内で完成させるかをマネジメントする側の分業がしっかりできているということ。忙しくなってくるとやっぱりみんなモチベーションが下がることもあるわけですが、そこでお疲れさま、とデザートを配ったり、制作が半分まで進んだら「Half Way Party」とイベントを開いたり、あの手、この手でアーティストを盛り上げようとしてくれるんです。それから、カフェテリアのランチも無料ですが、忙しくなれば、外出するかわりにランチを席に持っていって仕事することもできるし、いい人材を集めるためのセールスポイントにもなるし、結局、長い目で見たときに、効率のよさにつながっているんですよね。

平日のスケジュールは?
 睡眠時間は6〜7時間くらい。仕事は大体9時から6時か7時までですが、早めに出てくることもあります。忙しいときはストレスがたまってくるので、職場の敷地内にあるジムやプールに行って、少しでも汗をかくようにしています。その方がもっと仕事の効率が上がったりします。

日本に戻る頻度
 年に1度くらい帰りたいのですが、実際には2、3年に1度。

最近日本に戻って驚いたこと
 電車に乗るときに使うPASMOでしたっけ。あれは「すげー!」と思いました(笑)。

永住したい場所は?
 将来的には日本に帰って、アメリカで得た知識や経験を若い人達に還元できるような機会があればと思います。

5年後の自分に期待すること
 子どもができてから、「この作品を作ったんだよ」って伝えたいという新たなモチベーションも出てきました。とにかくいい作品にもっともっと関わっていきたいです。それから、スーパーバイザーなど違うポジションからチームを見ることにもチャレンジしていたいですね。それには他の人のレベルを引き上げられるような力が必要なので、もう少し学んでいきたいです。

座右の銘は?
 「自分を信じて努力する」。自分が自分を信じてあげないと、他に誰も信じてくれないじゃないですか。誰でもチャンスは平等に転がっている。それを掴めるかどうかは、自分を信じてあきらめないことだと思います。

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インタビューを終えて
 インタビューを行ったのは8月初旬でしたが、この時、原島さんにとっては、ちょうど11月公開予定の「Mega Mind」の追い込みで超多忙なタイミング。それにも関わらず、全然疲れた様子もなく、イキイキと仕事をしている様子が伝わってきました。原島さんの仕事に対する情熱を、ドリームワークスの環境が存分に発揮させてくれているのだろう、と無料ランチをご馳走になりながらしみじみ思った次第です。

(BaySpo 2010/09/17号 掲載)

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