一般編  Vol.110
川初 正人さん
山口県出身。高校卒業後、海上自衛隊呉アカデミースクールで学び、海上自衛隊へ入隊。除隊後、岡山県・金光町にある金光教本部の教師養成学校(金光学院)にて学び、教師になる。同学院に務めた後、1971年に渡米、サンフランシスコへ。その後、ハワイ、サクラメントでの教会勤務を経て1982年に再びサンフランシスコへ戻る。昨年できたサウスサンフランシスコ支部を現在担当。
日本文化を伝えていくという使命
金光教会の教師としてベイエリアに渡ってからもう30年という川初さん。「宗教の前にまず文化が大切」と日本町コミュニティの活動にもさまざまな形で参加してきた。そんな川初さんのこれまでの道のりや暮らしぶりを聞いた。
川初 正人さん

金光教会シニア教師(Masato Kawahatsu)BaySpo 1118号(2010/04/23)掲載

ベイエリアに住むことになったきっかけ
 日本では岡山に本部のある金光教の教師養成学校で教師を務めていたのですが、ある日突然、学院校長から、アメリカのサンフランシスコ教会と北米教区事務所にて勤めるよう勧められ、1971年にサンフランシスコに来ました。それまでは海外に行くなど考えたこともなかったものですから、「言葉はわからないし、想像もつかない未知の所に行くことはできません」と断ったのですが、「何とかなる」と校長が言い切るものですから、「何とかなりますか、それでは」とその場でいとも簡単に考え直してしまいました。

ベイエリアにきてから
 私は山口県生まれですが、4歳の時から四国の松山市からさらに船に乗って、1時間余り行った島で育った田舎者ですから、サンフランシスコの印象は、大都会に来たという驚きからはじまりました。住み始めてから3ヶ月余りした時のこと、ゲイリー通りを歩いて帰る途中で、いきなり2組に取り囲まれ、ホールドアップされました。私は柔道の黒帯でしたが、ピストルにはかないません。自分に「平常心」と言い聞かせました。昼間ですが人に気づかれると何をするかもしれないので、まずいと思い、何事もないような素振りで道端に座りました。すると2人もサイドに座り私の持っていた旅行カバンの中から、英語の本や辞書を取り出しました。しかし、金になるものがないと知ると、あきらめて逃げていきました。私はふと横をみると、彼らのであろうネックレス、カード、鍵等が置き忘れてあるではないですか。それをカバンに入れ、近くの警察署に持って行き、事情を説明すると警察は「そんな話は聞いたことがない。アメリカでは人の命は5ドルぐらいだ。助かってよかった」と大笑いしていました。さっそく私の話は翌日の地元紙にニュースとして載りました。これが私にとっての「ウェルカム・トゥー・アメリカ」といった出来事でした。

仕事について
 金光教の教師です。サンフランシスコには2年余り住んだ後、ハワイのパールハーバーに近いワイパフ教会で8年勤め、その後サクラメント市にて教会の手伝いをしながら「サクラメント豆腐」に2年間勤め、再びサンフランシスコには1982年に戻ってきました。金光教サンフランシスコ教会の教会長を務め、最近サウス・サンフランシスコ市に教会の支部を開きました。ここでは、精神、心のカンセリング、武道、書道などを、心身学教育と日本文化と精神の普及として行っております。宗教の違いを問わず、どなたでも自由に参加してもらっております。また、5〜6年前からは、「ありがとうございます」を1日1000回唱える運動を行っています。これまで会った人で1日1000回ありがとうございますを言っている人はほとんどいません。それは多すぎるといいますが、不足、不平はみんな1000回ぐらいやっています。先日、ベイエリアにもいらっしゃった「ツキを呼ぶ魔法の言葉」の著書で有名な五日市剛さんとも本を交換させていただきましたが、「ありがとう」には宗教を越えた力があります。社会を感謝で満たすことが私の専門分野だと思っています。

金光教の教師になったきっかけ
 金光教は約150年前に日本の岡山で始まった宗教で、実家がもともと教会であったのですが、私は若い頃はそれに反発し、高校を卒業した後は、海上自衛隊呉アカデミースクールという学校で学び、海上自衛隊に入りました。世界一周航海に出る前のある日、星空を見ていたら、急に宇宙から自分を見たような感じの不思議な体験をしました。自分が死ぬ直前は本当にむなしい、心が空という感覚だったのですが、そこから人智を超えた力へと興味がうつっていきました。そしてまたある時は、大きな病気をして何ヶ月も苦しんだことがありましたが、つらくても、いたくても「ありがとう」を常に言って、笑い、自分のことは忘れて人のために祈る、これをやってみようと思いました。すると実践しはじめて2週間ちょっとで病気が治ってしまったんです。それで、21歳の時金光教の学校入り、卒業して金光教の教師になりました。「おかげは和賀心にあり」という金光教の言葉があるのですが、自分が助かるには、神様が喜べる心になることがまず大切です。

金光教について
 金光教は一人一人との対話で神と人間の橋渡しをいたしますが、それを取り次ぎといいます。神仏にお参りして、お願いしても一方通行で、神の願いを知ることができず、真の助かりが生まれない。そこで取次ぎにより神の願いを知り、それに従うことにより神の無限のおかげを受けることができると教えています。教会は日本に約1700、アメリカには約20ありますが、そこで取り次ぎが行われます。ベイエリアではサンフランシスコの教会のほかに、サウスサンフランシスコ市に昨年支部ができたばかりですが、私がそれを担当しております。

日系コミュニティでの活動について
 約80年の歴史があるサンフランシスコの教会は日本町の中にあり、日本町と共に歩んできました。サンフランシスコ桜祭りでの樽神輿のお払い式をはじめ、様々なコミュニティの活動に参加してきました。私は宗教の前にまず文化だと考えていて、ほかにも書道や武道を教えてきました。日本町を維持していくためにはやはり日本文化の教育が大切です。日本人だけとはいわず、アメリカに住むほかの色々な人種の方にも広め、伝えていくことです。文化活動は精神向上の助けになります。アメリカには文化がない、とよくいわれますが、様々な文化を持つ人々が住んでいますから、そこから文化を学ぶチャンスはおおいにあるわけです。日本から来たからには、日本文化をこの国に伝えていくという使命があるということを自覚しています。

英語で仕事をするということ
 25年前頃の教会は日本語が中心でしたが、今では英語が中心になっております。参拝者は日系3、4世、アフリカ系米国人、中国人、白人系、混血と色々です。言葉は90%が英語で10%ぐらいが日本語です。

英語で失敗したエピソード
 言葉の違いだけではなく、表現や考えの違い、文化の違い、生活の違いでとんちんかんなことを随分経験しました。特にアメリカ生まれの日系と中国系のミックスである妻と結婚してからは色々な違いでとまどい、苦しみました。例として、こちらではよく「YESとNOをはっきりしろ」と言われます。ところが、はっきり言えないことも多々あります。言えないと「いいかげんだ」と言われます。それで長年悩んだこともありますが、今ではその違いをみとめ、相手を受け入れること、誠実にYESかNOで答えるか、あるいは答えないか、その状況に応じています。YESかNOかではなく、誠実であるかどうかが大切なことであると学びました。

川初さんにとっての仕事とは?
 私の仕事は人々が幸せになることですから、一番いい仕事についていると思います。

いまの仕事についていなかったら
 たぶん農業をやっているか、絵描きか、学校の先生でしょう。

現在、住んでいる場所
 サンフランシスコの日本町です。

よく利用する日本食レストラン
 日本町の「いづみや」や「槙」レストランによく行きます。

1億円当たったとして、その使い道
 サウスサンフランシスコに教会を建てます。

日本に戻る頻度
 年に1度か2度です。

最近日本に戻って驚いたこと
 自分の生まれた60年前ごろとは、あまりにも違うので驚かされますが、今の若者は本当に幸せなのかどうか疑問に思うことがあります。恵まれすぎて苦労知らずでかわいそうにも思います。

日本に持って行くお土産
 昔は重いウイスキーなどでしたが、今はこちらのお茶、コーヒーなどです。

日本からベイエリアに持って帰ってくるもの
 吉備団子、うなぎ、わかめチリメン、Tシャツなど。

永住したい都市
 ベイエリアですね。

5年後の自分に期待すること
 今年初めて富士山に登る計画ですが、5年後も登りたいと思います。


<インタビューを終えて>
 サウス・サンフランシスコの教会にお邪魔しました。教会は、神棚や像などはなく、かわりに川初先生の筆による日々の心がけについての言葉などが掲げられたシンプルで温かみのあるお部屋でした。感謝することや文化を継承していくことなど、生きていく上で大切な基本のようなものを伺い、気持ちが引き締まる思いがしました。

川初さんへ5つの質問

最近読んだ本は?
 「ありがとうおじさんの本」。これは誰に教えられたでもなく3歳から感謝の祈りを始められ、50年あまりの間、ひたすら「ありがとうございます」を言い続けているという方の話です。

最も印象に残っている映画は?
 「フラガール」です。アメリカ・ハワイの文化が日本のど田舎で花開くという話でしたが、登場人物たちがやり通すところが良かったですね。我々も日本文化をアメリカに花咲かせ、アメリカに貢献できたらと思います。

最近観た映画は?
 「おくりびと」。人が嫌うような納棺という仕事を、価値あるものと周りがだんだん認めていくところが感動的でした。

自分を動物にたとえると?
 戌年だから犬です。

座右の銘は?
 先、今日、今を楽しめ。

(BaySpo 2010/04/23号 掲載)

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