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| 一般編 Vol.107 |
石松久幸さん |
東京都生まれ。UCバークレー校・東アジア研究図書館日本部長。慶應義塾大学文学部図書館情報学科を卒業後、メリーランド大学図書館情報学大学院に派遣され渡米。同大学院を卒業後、メリーランド大学、シカゴ大学図書館等を経て現職に。著書に『バークレー・クラブ』(PMC出版)、『アメリカほたる』(PMC出版)、『おじさん漂流記inカリフォルニア』(本の友社)など。また、近年は、古地図のデジタル化プロジェクトに尽力している。馬5頭、犬、猫、ニワトリ、鯉を自宅で飼育するなど動物好き。 |
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「日本ではやれないこと」をやりたくなるじゃないですか |
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動物が大好きで、馬5頭、犬3匹、猫3匹、ニワトリや小鳥、コイまでも飼っているという石松さん。ご自宅では馬糞と奮闘しながら、仕事では日本を世界に紹介する顔として忙しい日々を送っている。そんな石松さんのベイエリア生活を伺った。
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UCバークレー校・東アジア研究図書館日本部長(Hisayuki Ishimatsu) | BaySpo 1111号(2010/03/05)掲載 |
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ベイエリアに住むことになったきっかけ 慶応義塾大学を卒業後、1972年に慶大卒業生としてメリーランド大学に派遣されアメリカに来ました。当時は、インターンのような感じで、大学院で図書館情報学を学びながら図書館員として働きました。その後シカゴ大学を経て、ベイエリアには1980年、UCバークレー校に職を得たのをきっかけに移住してきました。 ベイエリアは、アジア系が多くアメリカの他の土地とはずいぶん雰囲気が違うように感じました。
仕事・専門分野について アメリカの大学図書館で日本について研究する教授、学生、研究者などのお手伝い、つまり日本についてならなんでもを紹介する仕事をかれこれ40年近くずっとやってきました。ここの大学の「東アジア図書館」は、日本国外で日本語の資料が最も多く、約50万冊ほどあります。また、州立大学の図書館なので一般の州民にも開放されています。それが他の一流私立大学の図書館とは大きく異なることですね。この東アジア図書館は、アジア研究の「ハブ」として機能しており、周辺大学や海外からも毎日Eメールなどで質問がきます。ただ、南京大虐殺とか朝鮮慰安婦問題といった問題についても対応しなくてはいけないときにはつらさも感じます。
なぜ、アメリカで図書館員に? メリーランドにいた時に感じたのですが、図書館学という分野でやはりアメリカはレベルが高い。当時、大学の授業は図書館中心に行われていまして、図書館員というのは非常に重要なポジションでした。こちらでは、専門家として、プロフェッショナルの仕事として評価してくれますので、やはりアメリカでと考えました。日本ではどちらかというと専門職というより、一般の事務員として扱われてしまいます。人事異動などでは、図書館員としてのポジションではない仕事を任せられてしまうこともあります。この点は、日本は遅れていましたね。
古地図のデジタル化プロジェクトにも参加されているそうですが 実は、UCバークレー校には、戦争直後の財閥解体の時に、三井家から極秘で購入した約10万点に及ぶコレクションが収蔵されていて、その中には、三井家が集めた江戸時代の日本古地図が約2000点もあるんです。でも、過去50年間、この地図を利用した人はたったの10人。ほとんど利用されていなかったんですね。そこで、これらの地図をデジタル化しようというプロジェクトをスタートしました。ある時、このプロジェクトがNYタイムズに紹介されると、南アフリカやスウェーデンなど世界中から3日間で4万5千ものアクセスがあり、BBCやヒストリーチャンネルなどでも利用されるようになりました。映画「ラストサムライ」でも使われたんですよ。今も、Googleと共同でGoogle Earth上に古地図を重ね合わせるなんてのもやっています。デジタル化により簡単に細かい所まで見ることができるようになりましたし、地図も傷みません。この辺りは昔誰が住んでいたかなんてのもわかって楽しいですよ。ほとんど使われることのなかった古い地図が、今になって再び生きてきたのが面白いですね。同図書館のサイト(www.davidrumsey.com/japan/)で一般公開されています。
石松さんにとっての仕事とは? 知的な好奇心を刺激し、満たしてくれる仕事なのでとても充実感があります。村上春樹さん、大江健三郎さん、遠藤周作さんなどの著名人をはじめとした、いろいろな方とお会いする機会もありましたし、自分の時間も充分にとれるので幸せに感じています。文化も豊かな、日本という非常に良い国を紹介することに誇りと責任を感じます。日本を背負って立つという気持ちです。ただ、今後、若い世代の方には、図書館員というのはお奨めできない職業かもしれません(笑)。Googleなどの登場で情報検索は容易になりましたから。
バークレーに住む日本人についての本を出版されていますね 遊びで、「バークレークラブ」(91年PMC出版)という本を書きました。例えば、忍者の先生や仙人道を究めている人など、日系人社会に入っていかない面白い日本人ってたくさんいるんですよ(笑)。自分に自信があり、アメリカで堂々と生きている日本人の方たちは、あえて日系社会の中に入って行こうとはせずに隠れているんです。表に出てこないだけで、活躍されている日本人の方は結構いますね。
英語で仕事をするということ 失敗の連続です。英語は未だに下手ですが、仕事上ではあまり苦労はしません。というか自分の下手さを気にしないことにしています。英語の上手な外国人も多いですし、ひどい英語を使うアメリカ人もたくさんいるのですから。
英語が100%ネイティブだったらどんな仕事に? 案外、今と同じ仕事をしているのではないかと思います。この仕事に就いていなかったらなんて想像できません。
現在、住んでいる家 イーストベイのラファエット市にある一戸建てです。
休日の過ごし方 5頭いる馬の世話、飼い葉の買出し、馬糞処理作業、遠乗り、庭の手入れなどをしているので一日中、屋外に居ます。
馬はもともと好きだったのですか 高校時代に馬術部に入っていました。日本では、なかなか馬を飼うってことはできないですが、こちらではお金持ちでなくてもできますから。ちょうど娘が、馬をやりたいって言ってくれたんで飼うことにしました。アメリカにいると「日本ではやれないこと」をやりたくなるじゃないですか。
好きな場所 この近くではブリオニズ地域公園、ディアブロ州立公園、ハームーン・ベイ近くの海岸。離れたところではグレーシャー国立公園、アイダホ州のティトン・バレー、ユタ州南部の山岳地帯。
1億円当たったとして、その使い道 不況で飼い主に手放され、飢餓状態になったり、薬殺されたりしている馬、犬、猫その他の動物が今、数多くいます。広い土地を買ってそれらの動物を養うレスキュー牧場にしたいです。また象やキリンも飼ってみたいです。
最近日本に戻って驚いたこと 娘と一緒に3週間日本各地を旅行してきたばかりです。鉄道網の充実と食べ物の種類の豊富さにはいつもながらおどろかされます。レンタカーも安くて便利。とても楽しく美味しかったなぁ。
日本に郷愁を感じるとき 学校時代の友達が月に一度集まってお酒を飲んでいるなどと知らされるとき。
現在のベイエリア生活で、不便を感じるとき 日本みたいに家の近所に歩いて行ける馴染みの居酒屋とかスナックがあるといいですね。
現在のベイエリア生活で不安に感じること 経済が一向に良くならないこと。街でも職場でも中国、中国一辺倒で、なんだか中国の植民地になってしまったみたい。こんなはずではなかった。うちの図書館なんて「グレートチャイナライブラリー」なんて呼ばれていますし、大学構内でも中国人の名前がついた建物も多いです。
5年後の自分に期待することは? 大病に気をつけよう!
インタビューを終えて 職場とご自宅でインタビューさせていただきました。約1・8エーカーの土地に馬小屋まであるというご自宅での石松さんの表情は、自然と生きるカウボーイのよう。とてもリラックスした表情が素敵でした。仕事とのオン・オフの切り替えは私も見習わなければと思いました。
石松さんに5つの質問!
最も印象に残っている本は? 職業柄、本は毎日たくさん手にします。林子平の「開国兵談」は感銘しました。日本人が誇るべきは武士道精神です。
最近読んだ本は? ドフトエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」を読み直しました。 お勧めの観光地は? グレーシャー国立公園、グランド・ティトンとイエロー・ストーン国立公園、ブライス・キャニオン国立公園、キー・ウエストなど。スエーデンのふつうの田舎も好きで何度も行きました。
自分を動物にたとえると? ねずみ。ガラクタを集めてくるのが好きですし、ねずみ年でもありますし。実は、趣味で世界中の「ハエタタキ」を集めています(笑)。イタリアのはデザインだけで使いにくいとか、どこの国のか忘れましたが、大きすぎてハエが網から抜けてしまいそうな代物まであります。お金がかからない趣味ですよ。でも、日本のものは、塵取りやピンセットまで付いていたりして、やっぱり実用的だなって思いますね(笑)。
座右の銘は? 「今日できることは今日のうちにやっておこう」。馬を飼っていると、ちょっと油断すると馬糞の量が倍になってしまったりする苦い経験を繰り返してきたからです。
(BaySpo 2010/03/05号 掲載) |
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