アメリカには人間ドックという概念がありません。駐在員に課せられた年一回の企業健診というのも含めて話をすると、地元の行きつけの家庭医で話しても「それは何だ。」「何でするんだ?」と言われてやってくれません。そのため、当院でも他州からジェットで飛んできて企業健診を受診されるご家族も結構あります。アメリカには年に一回保険がカバーしてくれる「Annual Check Up」というのがありますが、ここでご質問の「人間ドック」というのから比べればかなり限られた検査になります。心電図や肺のレントゲンですら保険の対象外になります。医師のほうも、スタンダードでない検査を重ねれば、PEER REVIEW (同等の立場からの評価や検証)あるいは保険会社から、「おまえ何やってるんだ」と言われてしまいます。でもご安心ください。かなりの部分が保険対象外ですが、多くの日系のクリニックではその需要に応えるべくいろいろなプログラムを組んでいます。
そこでご質問の「最低限受けなければいけない項目はありますか?」ですが、それはご本人が何を求めて検査されるかです。最近流行の脳ドックや全身PET SCANを希望される方に簡単な血液検査しても、誰も納得しないでしょう。企業健診も含めて、我々は一般的に年に一回の厚生労働省から課されている項目を選んでいます。血液検査、尿検査、視力、聴力、心電図、肺のレントゲン、腹部超音波検査、胃のバリウム検査あるいは胃カメラ、婦人科検査、それに各種超音波検査等を組み合わせて行っています。それに、肝炎ウイルス検査、各種腫瘍マーカー、HIV、ピロリ菌検査、長期血糖値のコントロールを見るヘモグロビンA1c、肺機能検査を追加することもあります。年齢的には40歳以上の女性にはマンモグラム、それ以下では乳房の超音波検査、50歳以上には大腸カメラ(毎年は必要ありません)、50歳以上の男性には前立腺検査とPSA (前立腺腫瘍マーカー)でしょうか。
会社によっては検査の結果が悪いと強制帰国が課せられるところもあれば、いったい何のために健診してその結果をどう捉えてどう改善するかさえ無視されていることもあります。