美しい歯並びを作り上げる矯正治療には大きく分けて抜歯する方法と歯を抜かない方法があります。出っ歯を引っ込めたい場合や、顎が小さく歯が全て収まるスペースがない場合などには、どうしても歯を抜かないと治療目的が達成できないことがあります。さらに、抜歯治療が理想なケースなのに無理に歯を並べると、一見綺麗に並んだように見えても口元が出てしまい、顔のバランスが崩れてしまったり、口が閉じづらくなったり、歯茎に過度の負担が掛かってしまったりします。
もちろん、一度抜いてしまった歯は元には戻らないので、抜歯の必要性は慎重に診断した後に決めます。そもそもなぜ歯が並んでいないのか原因を突き止め、どうやって機能的かつ綺麗な歯並びを得られるか、顔のバランスや患者さんの顎の成長過程にも考慮して、治療計画を立てます。症例にもよりますが、よく抜歯される歯は小臼歯(英語ではpremolarまたはbicuspid)と呼ばれる、尖った犬歯(canineまたはcuspid)と後ろの大きな大臼歯(molar)の間に位置する歯で、左右上下対称に計4本の場合もあれば、それより少ないこともあります。
さて本題の歯を抜いた後のスペースですが、位置によってはニコッと大きく笑うと目立つこともありますし、「治療が終わっても隙間が閉じないのではないか」と心配される方は沢山いらっしゃいますが、ご安心ください。抜歯のスペースは、前歯を引っ込めるためや、窮屈に並んだ歯のガタガタを解消するために必要なもので、治療前に計算済みです。前歯と奥歯の間に引っ張り合う力をかけながら徐々に閉じていきます。歯が動くスピード、すなわちスペースが閉じるタイミングには個人差がありますが、平均して1カ月に動く量はおよそ1ミリです。抜歯後のスペースは小臼歯の場合、大体8ミリ前後ですので、1年足らずで隙間は閉じていきます。
抜歯のスペースの閉じ方にも症例により色々とストラテジーがあります。私たち矯正歯科医も皆さんに「矯正して本当に良かった!」と喜んでもらえる様に、常に先を読んで治療を進めていきます。歯が動くには細胞単位での変化が必要なので、気長に、治療後の結果を楽しみにしながら頑張ってください。