賀川 裕美先生
親身な漢方・丁寧な鍼灸をモットーに賀川漢方クリニックで診療。CA州鍼灸師で、米国東洋医学会認定の東洋医学師。家族の慢性疲労が針灸と漢方で治ったのを目の当たりにしたことをきっかけに東洋医学に魅了される以前には、東京工業大学で理学博士号取得後IL州アルゴン国立研究所に勤務、現在はCA州NASAエームス研究所にて宇宙での微生物利用の研究にも従事。
鍼はしょっちゅうやってると慣れてきて効果が出なくなるという話を 耳にします。耐性が出来るというのは本当なのでしょうか?
 人間の体は環境の変化に対応して変化する能力を備えています。それが1回の治療効果が長続きせずまた元の状態に戻ってしまうという形で現れる場合もあるし、治療を何度も繰り返しているうちにだんだん効果が弱まってくるという形で現れる場合もあります。例えば電気鍼でツボを刺激すると、最初は鍼の刺激が感じられますが数分もすると何も感じなくなってしまいます。神経が度重なる刺激を受け続けると感じられる刺激の閾値をあげて刺激を感じないようにしてしまう、つまり慣れ(=耐性)が生じるからです。試しに25セントコインを前腕の上に置いてみて下さい。数分もしないうちにコインがあるという感覚はなくなるはずです。耳ツボ刺激でも最初の日は耳が痛くなることがありますが翌日には痛くなくなることが多いです。鍼治療をしても数日でまた元の状態に戻るというのも、体が鍼刺激のない状態に慣れたと考えると同じような仕組みで起きているのかもしれません。
 漢方薬でも似たようなことがあります。例えば腸の神経を刺激するタイプの下剤では使い続けるとだんだん神経が刺激に慣れてきて効果が落ちてくる場合があります。神経以外の要因では肝臓での薬物代謝に関わるP450という酵素群の種類が変化することで漢方薬の消化具合が変わったり、腸内細菌叢が変化してしまうことで今まで消化できにくかったものが消化されたりその逆も起こります。例えば乳糖不耐性(乳製品を摂取すると下痢する)の人が乳製品を全く摂取しないでいるとほんの少しの乳製品を口にしただけで下痢してしまうのに、毎日少しずつ乳製品を摂取していると少量の乳製品では下痢をしなくなるのは上記のような神経以外の要因による耐性ができたと考えられます。
 では耐性ができてしまうから鍼はしょっちゅうやらないほうがいいのでしょうか。ここで問題はしょっちゅうとはどんな頻度かということです。鍼治療をしても数日経つとまた元の状態に戻るということなら数日経てばまたやっても良さそうだとも考えられます。また毎回同じツボに鍼を置くといっても数ミリのズレはあるのが普通なので全く同じ場所を刺激しているわけではなく、耳ツボでは今週は右、来週は左というように変えることもあります。置き鍼では常に同じ場所を刺激し続けているように見えますが、治る前に外すと痛みが戻ることが多いことを考えると、体の動きにともなって置き鍼が動き、刺激の強さが変化し続け耐性ができにくくなっているのかもしれません。漢方薬では、神経刺激性の下剤は長期使用しないようにし、それ以外では効かなくなってきたら他のものに変えます。ですので頻繁に鍼をやって効きが悪くなってきたという気がしたら鍼灸師に相談してみて下さい。新たなツボを刺激してくれるかもしれません。

(BaySpo 2017/08/11号 掲載)
有澤保険事務所

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