ベイエリアに住むことになったきっかけ、渡米した年 夫がスタンフォード大学の幹細胞研究所での役職をいただき、2014年2月にベイエリアに移ってきました。
ベイエリアの印象 1983〜85年にも、当時スタンフォードの博士研究員だった夫の仕事の関係で、3年間暮らしていましたが、そのころと比較すると物価全般が高くなり、車が増え、高速道路の渋滞もあり、様変わりしています。でも日本食料品店の数や取り扱われている商品も増えて、日本の製品がほぼ何でも揃うのは便利でありがたいですし、都会の雰囲気と田舎の雰囲気が良い具合に調和していて快適です。
自分の専門分野について 長唄三味線の演奏と教えること。長唄は300年程前から現在まで歌舞伎の下座音楽として使われ、明治時代から芝居とは独立した形での演奏会も開かれています。江戸時代は、能が高貴な人々の鑑賞対象であったのに対し、歌舞伎は庶民の芸能で、歌舞伎小屋も多くあり、今のように看板役者が庶民の人気をさらっていたそうです。ようやくアメリカでの生活も落ち着き、そろそろ本腰を入れて日本の伝統文化に興味ある子どもや大人に教えたいと思っています。
その道に進むことになったきっかけ 高校生の時に初めて観た歌舞伎で、舞台の後ろの黒御簾から奏でられる伴奏音楽に惹かれたことがきっかけです。大学では英語と異文化交流を学びましたが、27歳の時に長唄三味線を習い始めました。教え始めたのは名取の資格をいただいた20年前、つくば市に暮らしていた時からです。「人に教えることで、より深く学べる」という最初の師匠の言葉に背中を押されました。
英語を使うということ 帰国子女ではないので、英語をネイティブのように無理なく使いこなすのは不可能だと承知して、2つの言語間の橋渡しを出来る限りスムーズにできればと思っています。学生時代に日米学生会議に参加して、日米50人の大学生と米国の東部・中部・南部を訪れたことも大いに後の生活に役立ちました。長唄三味線を教えることに関しても、生徒が日本人であれば言葉の問題はありませんが、以前、東京の本郷で暮らした時、アテネ・フランセのフランス人教師が数人習いに来ていて、彼らには英語か、拙いフランス語で教えていました。これからは言葉や文化的背景の違うアメリカ人が増えることを考えると、綿密に準備して、より理解しやすい方法で、長唄三味線の楽しさ面白さが味わえるようにしたいと思っています。日本を離れていると多少心細さを感じますが、周りの応援に支えられています。
あなたにとって仕事とは? 自己実現と世界との結びつきを強める絆のもとになるようなものでしょうか。家族の次に大事な生きがいです。
生まれて初めてなりたいと思った職業 幼稚園の時にとても優しくて包容力のある、気持ちが真っ直ぐで素敵な先生がいて、その先生のようになりたいと思いました。今でもその先生とは同窓会で途切れることなく60年以上も交流が続いています。間もなく90歳を超えられますが、今でもぶれない生き方をなさっている尊敬する女性です。
いまの仕事に就いていなかったら つくば時代に通訳会社で行事の企画と開催などの仕事をしていました。今の仕事をしていなければ、いろいろなイベントの企画・演出をする仕事についていたかもしれません。
現在、住んでいる家 Woodsideの一軒家です。こちらに来ると決まって主人があちこち探しましたが、なかなか納得が行かず、最終的に不動産屋さんが「これならどうでしょう」と、他の人よりも早く紹介してくださいました。木々に囲まれて静かでとても気に入っています。
乗っている車 TOYOTAのレクサスです。乗り心地満点で長時間運転しても疲れず、ドライブが苦になりません。ただしサンフランシスコ市内は昔は躊躇せずに行けたのに、今は駐車場を見つけることの難しさや交通量の多さで、一人で行く勇気がありません!
睡眠時間・起床時間・就寝時間 よく眠らないと不機嫌になり、体調も悪くなるほうです。7〜8時間は必ず眠ります。起床は朝7時半ころ。夜11時には就寝するようにしています。
休日の過ごし方 2人の息子家族が近くに住んでいるので、週末は皆でのんびりBBQをしたり、テニスをして大いに遊びます。余裕があれば読書か音楽鑑賞。日本では毎月のように歌舞伎や文楽を観に行っていましたがアメリカでは不可能なので、こちらでも楽しめるオペラ鑑賞を趣味にしたら、いつのまにか夫も一緒に楽しむようになりました。舞台はもちろん、NYメトロポリタン・オペラの同時中継も大好きで、特に休憩時間にある舞台裏の出演者へのインタビューは、ワクワクしてオペラに対する興味が益々わきます。考えてみたら歌舞伎も日本のGrand Operaですものね。
最もお気に入りのレストラン サラトガにある「Manresa」です。フランス料理の懐石料理のような雰囲気で、シェフは日本料理にも造詣が深いそうで、お絞りが出てきた時には驚きました。記念日に行きたい特別な店です。シーフードの美味しい店やイタリアンの「Don Geovanni」は毎週でも行きたいです。
1億円当たったとして、その使い道 お茶室を建てて、茶道や長唄演奏会をする場所を作りたいです。現在はゲストルームに畳をいれて茶室風和室にしていますが、より本格的な大きめの茶室と水屋があったら、たくさん人を招くことができます。炉を切って本物の炭をつかってお茶を点てられたら最高です。もちろんそこで長唄三味線のミニ演奏会も開きたいと思います。
最近日本に戻って驚いたこと みなさん心に余裕がないのか、忙しさで疲れているのか、困った人がいても見て見ぬふり。気持があっても人に親切にできないのではなく、最初から無関心に見える人が多いのに驚きました。心が渇いているというか、冷たいというか・・・。駅で電車を降りようとしている人を無視してどんどん乗り込んで来るのには驚愕しました。少し前まではそのようなことは皆無でしたのに。
日本からベイエリアに持って帰ってくるもの 和菓子、干菓子、あられ、うなぎの蒲焼、松葉の塩昆布、その他こちらで買えない乾物類いろいろ。三越のデパ地下にある菓遊庵で、全国各地の好みの和菓子も手に入れて帰ります。
現在のベイエリア生活で、不便を感じるとき 当たり前ですが、日本の伝統芸能の番組が少ししか見られないこと。TVジャパンで伝統芸能の公演をもっと放送してくれたら嬉しいです。(NYの歌舞伎公演などはとても面白かったです)
5年後の自分に期待すること 長唄三味線のお弟子さんを増やして、東京から家元や日本の演奏仲間を呼んで、演奏会を開けるようになりたいです。
最も印象に残っている本 アレックス・カーの『Lost Japan(邦題 失われた日本)』と、若桑みどりの『クアトロ・ラガッツィ(上・下)』。アレックス・カーの本は、つくば時代に多国籍人の集まりの読書会で読み、鋭い視点に感動しました。『クアトロ・ラガッツィ』は史実に基づいた資料を丁寧に読み解いた本です。とてもショッキングな結末で、読後はしばらく言葉が出ませんでした。若桑みどりさんは、私の敬愛する幼稚園時代の担任の妹さんです。
最近読んだ本 有馬頼底の『茶の湯とは何ぞや』。禅と茶道の深いつながりと現代の私たちのそれらに対するあるべき姿を、著者の仏門修行からわかりやすく説いています。「日常茶飯」という言葉に集約された人間の仏性のあり方は、とても共感できます。
最も印象に残っている映画 イタリア映画『ニューシネマ・パラダイス』。音楽が素晴らしい。インド映画『ランチボックス』は、同じアジアでも近くて遠い国の男尊女卑の習慣に胸が痛みました。
座右の銘は 「過去は未来より遠し」。1分前の過去は1分後の未来より遥かに遠い。これは亡き母がいつも私に諭していた言葉で、「人生は後戻りできない、いつも前を向いて未来のために生きなさい」という意味かな、と自分なりに解釈しています。舞台の演奏後はいつも反省や後悔ばかりですが、それを後に引きずらずに、次の演奏に生かすことだけを考えるようにしています。早くに亡くなった母のありがたい教えです。