一般編  Vol.333
ウィリス 西澤 さち子さん
渡米30年。色々な縁で演劇からヨガに導かれ、サンフランシスコを拠点にしたヨガインストラクターを務める。現在はオンラインでヨガのレギュラークラス、レストラティブ、腰痛ケアのクラスやワークショップなど行なっている。サンフランシスコ、テンダーロイン在住。
ヨガは本来持ち合わせた 「核」を発掘するプロセスウィリス
NYでの劇団制作に携わった後、パートナーの仕事の都合でベイエリアにやってきたという西澤さん。当時はエクササイズとして始めたヨガがターニングポイントとなり、現在はインストラクターとして活躍する彼女に、ここでの暮らしについて伺いました。
ウィリス 西澤 さち子さん

(Sachiko Nishizawa Willis)BaySpo 1659号(2020/09/11)掲載

ベイエリアに住むことになったきっかけ
 滋賀県八日市市(現東近江市)の出身なのですが、毎年姉妹都市であるミシガン州マーケット市の北ミシガン大学から、八日市に住む大学生1名に奨学金が出されて、1年間体験留学させてもらえる制度があります。私は1988年にそれをいただいて渡米しました。留学中小さな頃から興味のあった演劇科の生徒さんたちと仲良くなって、裏方のお手伝いや舞台デビュー(セリフは無しでしたが)したりして1年が過ぎたのですが、どうしても演劇の勉強を続けたくて1990年に再渡米しました。全米を転々とした後、一番最初に落ち着いたのがニューヨーク市でした。そこで非営利の劇団の制作を10年ほどやった後、役者だった夫がサンフランシスコのAmerican Conservatory Theatreの専属俳優として雇われたのをきっかけに2006年サンフランシスコに引っ越して来ました。

ベイエリアの印象
 ニューヨーク市に比べて何もかもがゆっくりゆったりでホッとしたのを覚えています。気候が穏やかだということもあって、いつも新鮮な食材が手に入るというのがとても嬉しいのですが、それ以上に食と暮らしの関係がシンプルでダイレクトですよね。そういう感じで色々な側面から人の暮らし、生き方、そしてコミュニティーの関係がどうあればもっとシンプルでダイレクトになるだろうかと考えている人たちが多いように思います。

自分の専門分野について
 ヨガは2011年から劇団の仕事とかけもちながら教えていましたが、2018年からフルタイムでヨガインストラクターとしてやっています。アイアンガーヨガというヨガを専門にしているのですが、簡単にいうとB.K.S.アイアンガー師(1918〜2014)が長年の経験から編み出したメソッドです。身体のアライメントを追求するために、そしてどんな人でもできるように、アサナ(ポーズ)へのアプローチが丁寧でクリエイティブです。自身を身体のあらゆる部位や角度から見つめ気付きを深めていくプラクティスで、知らず知らずと精神面や日々の生活にも気付きが深まっていく奥のあるメソッドです。そしてアイアンガーヨガはセラピー効果でも知られています。私自身先天性股関節脱臼の影響で15年ほど前に歩行困難になった時期もあったのですが、アイアンガーヨガのおかげで回復した経験があります。
 アイアンガーとかアシュタンガとか色々な流派ありますが、それぞれは長い歴史のあるヨガという一つの「幹」から枝分かれしていることを忘れないようにしています。ヨガは結局あらゆることに踊り揺らされる心を静め、私たちがもともと持っている強くて優しくてブレない「核」の部分を発掘するプロセスだと思います。自分が自分であるために不必要な「衣」を一枚一枚脱ぎ捨てていくような感じかなとも思います。アイアンガーヨガの素敵なところはそのプロセスを身体という誰もが持っていて比較的わかりやすいところからじっくりと始めるところです。自分の身体との向き合い方を鍛錬することで自分の内面のみならず「外の世界」との向き合い方、関わり方も変わってきます。

その道に進むことになったきっかけ
 私が選んだと言うより導かれたという感じがあります。中学生くらいの時母が買ってきたヨガの本の神秘さに魅了されたのですが、ヨガのクラスに初めて行ったのは15年以上経ってニューヨークに引っ越した後でした。3年ほどエクササイズとしてクラスに通っていたんですが、2001年にアイアンガーヨガに出会ってからヨガとの向き合い方が変わりました。ティーチャートレーニングを2009年に始めましたが、ただ知識を深めたかっただけで、先生になろうともなれるとも思っていませんでした。「ただ知識を深めたいだけ」で無我夢中前に進んでいたらいろんな縁が広がって、教える機会をいただくようになりました。その過程のどこかで「知識を深めたい」プラス「知識を分け合いたい」と強く思うようになり今に至ります。一番のきっかけと原動力は現在の師に出会えたことだと思います。

英語で仕事をするということ
 日本語にしろ英語にしろコミュニケーションはそれをツールとしてどのように使い、自分の伝えたいことのみならず、自分という人間性を相手に伝えるかだと思います。ヨガは英語でしか学んでいないので、日本で教えることにしばらく躊躇していたのですが、アメリカ人の友人が、「英語とごちゃ混ぜでもそれがさちこなんだからそれでいいんだよ」と言ってくれたことで吹っ切れました。

英語で失敗したエピソード
 色々あったのでしょうがあまり覚えていません(笑)

英語が100%ネイティブだったらどんな仕事に?
 役者かな? 英語がネイティブでないからと諦めたので。

あなたにとって仕事とは?
 私が私なりに世に貢献できる機会とさらなる可能性をもたらしてくれるものです。良いところも悪いところもも含めて自分を知るプロセスでもあり、私の中にある可能性を掘り出すツールでもあります。これはきっと終わりなきプロセス、道なんだと思います。

生まれて初めてなりたいと思った職業
 看護婦さんとか獣医さんとか思ったころもあったのですが、長く思い続けていたのは役者になることでした。

休日の過ごし方
 パンデミックの前はほとんど休みがなかったので休日は家にいて家事をするかのんびりとしていました。もともとアパートにいるのが好きで、放っておいたら何日も出てこないです(笑)

好きな場所
 自分のアパート。うちの建物の裏にはテナントさん用のガーデンがあるんです。そこも好きです。小さいんですが鯉の泳ぐ池まであるんですよ!

最もお気に入りのレストラン
 市役所近くにあるビーガンアジア料理のGolden Era。 それからミッション地区にある南インド料理のUdupi Palaceです。

よく利用する日本食レストラン
 ミッション地区にあるMaruyaさんです。

日本に戻る頻度
 1年1回は帰るようにしています。

現在のベイエリア生活で、
不便を感じるとき
 大抵のことは徒歩、バス、電車で大丈夫なんですが、車があればなあと時々思っていました。パンデミック後は特に思います。

現在のベイエリア生活で不安に感じること
 パンデミックは現代社会の様々な問題(例えば人種差別、収入格差、環境問題など)を特に浮き彫りにした感じがあります。急いでパンデミック前の「ノーマル」に戻ろうとする動きに不安と違和感を感じます。もちろんそんな悠長なことを言っている場合でないと言われそうですが、この世界的事件をきっかけに人や自然を生産力や消費力で推し測るのではなく、全てが支え合いマインドフルに生きていけるような世界にならないかな、と…。

日本に郷愁を感じるとき
 お正月。年越しの除夜の鐘や、初詣なんかのなんとも言えない神聖さがここでは味わえないですよね。

お勧めの観光地
 北カリフォルニアには素晴らしい自然が豊富にあると思います。特にレッドウッドや、海岸沿い。(ハイウェイ1は北上、南下数回しました。)マウントシャスタもお勧めです。

最も印象に残っている本
 遠藤周作さんの『沈黙』。 大学時代に「神」とか「宗教」という概念に興味を持ち始めて、手にとった本なのですが、衝撃を受けたのを覚えています。最近スコセッシ監督が映画化されたのを機にまた読んでみましたが、やはりインパクトありますね。

最近観た映画
 草間彌生さんの人生を追った『Kusama-Infinity』

自分を動物にたとえると?なぜ?
 猫かな。うちの猫はきっと私を同類だと思ってるし(笑)

自分を動物にたとえると?なぜ?
 猫かな。うちの猫はきっと私を同類だと思ってるし(笑)『Kusama-Infinity』

自分を動物にたとえると?なぜ?
 猫かな。うちの猫はきっと私を同類だと思ってるし(笑)

(BaySpo 2020/09/11号 掲載)

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