一般編  Vol.348
ケネディ(新井)麻世さん
茨城県出身。2009年に渡米。オレゴン大学卒業後、アライアント国際大学院にて臨床司法心理学の博士号を取得。オレゴン州、カリフォルニア州のlicensed psychologist。現在カリフォルニア州施設にて司法鑑定チームのリーダーとして裁判の訴訟能力鑑定を行う。なぎなた四段。ベイエリアに拠点を置く北加なぎなた連盟の連盟長を現在務める。
この国の司法制度関われる誇りを
心理学と法律が一つとなった司法心理学の観点から、州施設の発達障害センターで訴訟能力鑑定を専門とする新井さん。まだ日本では一般的でないと言われる司法心理学の分野で活躍する彼女に、ここでの暮らしについて聞きました。
ケネディ(新井)麻世さん

(Mayo Arai Kennedy)BaySpo 1684号(2021/03/05)掲載

ベイエリアに住むことになったきっかけ
 2009年1月にオレゴン州ユージーン市のオレゴン大学へ第2学士を取得しに単身渡米しました。その後大学院進学が決まり、カリフォルニア州フレズノ市に2012年8月に引っ越してきました。誰も知り合いもいない中で日本の大学時代に打ち込んでいたなぎなたを再開したいと思い、エルサリート市に住むなぎなたの先生に連絡を取らせていただいたのをきっかけにサンフランシスコ・サンノゼ市内の道場へ通うようになりました。

ベイエリアの印象
 日本人に住みやすそう! と思いました。おいしいパン屋さんにケーキ屋さん、日本のマーケット、日本食のレストランと、とにかく気分の上がるお店がたくさんで、ベイエリアに来るたびにいろいろなお店を回ったり大量の日本の食材を買い込んで帰りました。気候も穏やかで都会過ぎず、必要なものがちゃんと手に入る過ごしやすい街の印象があります。

自分の専門分野について
 臨床司法心理学の博士号を取得し、今は司法心理学者としてカリフォルニア州施設の発達障害センターで訴訟能力鑑定を行っています。起訴された後、発達障害・知的障害をもった患者さんが正当な裁判を受ける能力があるかどうかを鑑定して訓練を行い、裁判所に鑑定書を提出しています。昨年からは鑑定チームを発足し、リーダーとして後任の育成にも努めています。

その道に進むことになったきっかけ
 様々な凶悪犯罪がニュースで報道されている中で、一番近くにあり最も不可解であるものが心であると思うようになりました。人の心を理解したいと勉強する中で、人が人を裁くとはどういうことか、罪を償うということはどういうことかを考えるようになり、心理学と法律が一つとなった司法心理学の道に進むことにしました。日本での大学院進学を考えましたが、日本の教授陣たちからは私のやりたい分野は日本ではできないといわれ、単身渡米を決意しアメリカでキャリアを積むことにしました。

英語で仕事をするということ
 仕事をし始めたころは専門用語ばかりで勉強、勉強の日々でした。もともと英語が好きでも得意でもなく、ただ司法心理学者になりたいの一心でここまで来たので、足りないものは努力で補うしかありません。とにかく経験し場数を踏み、間違いや失敗から学んでいくしかありませんでした。弁護士や裁判所とのやり取りの中でプレッシャーに感じることもありますが、簡潔に丁寧に話すこと書くことを心がけています。

英語で失敗したエピソード
 仕事上、裁判所からの出廷命令を受け、提出した鑑定書について専門家として裁判中に証言することもあります。証言台に立ち質問に答えていく中で、どうしても私の"R"の発音が悪かったらしく、何回もレコーダーの人に聞き返されてしまいました。話すよりは書くことに力を入れすぎていることは自覚していますが、専門家として恥ずかしくないように発音にも気を付けないとと反省しました。

英語が100%ネイティブだったらどんな仕事に?
 変わらず臨床司法心理学者の道に進んだと思います。英語がネイティブでないことで何かをあきらめることはありませんでした。

あなたにとって仕事とは?
 ひと一人の人生を左右してしまうこともある、責任のある判断を必要とされるものです。そのようなプレッシャーの中で自分の知識、経験を活かしながら、この国の司法制度の一部に関われることを誇りに思います。患者さんの経歴、事件の要点をまとめ、査定し鑑定書を仕上げて署名をし裁判所に提出するときは、いつも緊張とともに、やり切ったという充足感を得ることができます。

睡眠時間・起床時間・就寝時間
 つい先日、念願の第一子が生まれました。なので睡眠時間、起床時間、就寝時間はあってないようなものです。今は産休中で赤ちゃん中心の生活を送っています。産休前は午後9時半か10時半には寝て午前5時半には起きる、規則正しい生活を送っていました。

休日の過ごし方
 土曜日にはよく、サンノゼへなぎなたのお稽古に通っていました。お稽古の後に仲間たちと一緒にお昼を食べたりカフェに行ったりするのが楽しかったです。ワイナリーやブルワリー巡りも好きで、よくテイスティングに行ったりもしていました。

よく利用する日本食レストラン
 ベイエリアに行ったときは一つのレストランに限らずいろいろな日本食レストランに連れて行ってもらいました。私が住むセントラルバレーには本格的な日本食レストランが少ないので、ベイエリアの日本食レストランはどこもおいしいイメージがあります。

1億円当たったとして、その使い道
 特にほしいものはありませんが、一昨年はドイツ、イタリア、日本と旅行をして本当に楽しかったのでたくさん旅行に行きたいです。現地で地ビールやワインのテイスティングをして、地元料理を食べる。もっともっといろんな国のおいしいお酒とご飯を食べに行きたいですね。あとは家でも買おうかな。

最近日本に戻って驚いたこと
 レストランでの英語のメニューや、観光地での英語のボランティアさんなど、外国人観光客にずいぶん対応しているなと感じました。引退した英語の先生など年配の方がとても元気で、アメリカ人の私の旦那によく話しかけてくれて、外国人に対してより寛容的になった気がします。

日本に持って行くお土産
 何と言ってもGhiradelliのチョコレートは外せません。あとはこちらで焙煎されたコーヒーも毎回買っていきます。カリフォルニア産のワインやビールも持って帰ったりします。

日本からベイエリアに持って帰ってくるもの
 日本から帰国するときはキッチンの便利グッズや日本のおいしいダシなどを持って帰ってきます。地元の道の駅で売っているような、そこでしか買えないローカル商品も好きで毎回持って帰ります。たいていのものはベイエリアのお店で買えますが、地元で作られているうどんや冷やし中華の乾麺は絶品で必ず持ってきます。

日本に郷愁を感じるとき
 私も弟も大学進学を機に実家を出てしまいましたが、両親・祖母はいまだに私や弟の誕生日にケーキを買いお祝いしてくれています。「お誕生日おめでとう」のメッセージと写真を見ると遠く離れた家族を恋しく思います。

お勧めの観光地
 ベイエリア周辺で言えばナパ・ソノマの美しいワイナリー。セントラルヴァレーではヨセミテ国立公園がおすすめです。ハイキングコースがたくさんあり、季節ごとに景色が変わるのでいつ行っても楽しめます。

5年後の自分に期待すること
 知識と経験を得て、より高い技術で鑑定書を書けるようになりたいと思います。司法心理学は日本ではまだまだ知られていない分野ですし、将来的には研究や学会を通して少しでも日本とアメリカの懸け橋になれたらと思います。5年ではまだまだ難しいかもしれませんが。

最近観た映画
 最近では 『The Trial of the Chicago 7』という映画を見ました。人は法の下に平等であるはずなのに、実際の司法制度には時に矛盾や不公平が存在します。司法制度の一部として裁判にかかわる者として、できる限り先入観を持たずに自分に与えられた仕事を全うしたいものです。

自分を動物にたとえると? なぜ?
 昔から猫にたとえられます。周りのことを気にせずに我が道を行く、からでしょうか。

座右の銘は?
 『やるだけやったら次がある。』

(BaySpo 2021/03/05号 掲載)

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