一般編  Vol.143
南雅彦さん
 大阪教育大学附属高等学校天王寺校舎を経て京都大学経済学部を卒業。京都大学文学部に学士入学し、米文学科専攻卒業後、高等学校勤務を経て、ハーバード大学教育大学院・人間発達と心理学研究科で博士号を取得。現在は、サンフランシスコ州立大学人文学部教授。国立国語研究所客員教授。北カリフォルニア外国語協会会長、全米日本語教育学会理事・春期年次学会担当役員、北カリフォルニア日本語教師会前会長などの要職を歴任。
創造する喜びと楽しみを分かち合いたい
 サンフランシスコ州立大学外国語学部で教鞭を執っていらっしゃる南雅彦先生。成績優秀な大学生・卒業生から成る米国最古(1776年設立)で最も有名なギリシャ文字クラブ『ファイ・ベータ・カッパソサイエティ(Phi Beta Kappa Society)』が選出した『2007年度北カリフォルニア最優秀大学教員』4人のうちの一人である先生は、現在日米でさまざまな研究活動をされています。そんな南先生にお話を聞きました。
南雅彦さん

(Masahiko Minami)BaySpo 1238号(2012/08/17)掲載

ベイエリアに住むことになったきっかけ
 渡米したのは1987年ですから、かれこれ25年になります。日本では高校教師をしていましたが、ハーバード大学の教育大学院で勉強することになり、妻と幼い子ども3人、家族そろって東海岸のケンブリッジにあるハーバード大学の家族用アパートに引っ越しました。1995年にハーバード大学で博士課程終了後、マサチューセッツ大学の心理学部で2年間教鞭を執りました。その後、1997年にサンフランシスコ州立大学に赴任しました。

その道に進むことになったきっかけ
 京都大学経済学部に入学した時の式辞で「経済学を学ぶ者は、社会の医者である」という言葉に深く感銘を受けましたが、当時は18歳ですから「今、現在」ということにしか興味がなく、「自分が本当は何をしたいのか」ということが、よくわかっていませんでした。ただ、両親も教師でしたし、母方の祖父と叔父が僧侶で地域貢献活動に従事していたこともあり、また母が早世したこともあって、教育・言語・心理という三本の支柱を通して、社会を眺めたい、何らかの形で社会に貢献したいと強く願うようになりました。

現在の仕事
 サンフランシスコ州立大学では、学部生にはビジネス日本語、日本語読解・作文のクラスなどで日本語を指導しています。大学院では、認知意味論・語用論・言語地理学・方言地理学などの言語学諸分野と文化人類学や比較文化心理学を含む『社会言語学セミナー(言語と文化)』を担当し、また言語心理学・応用言語学・言語教育学などが中心の『第二言語習得セミナー』も担当しています。

英語で失敗したエピソード
 1994年冬にボストンで開催されたアメリカ言語学会(Linguistic Society of America)で、日本語の例文を示しながら英語で研究報告をしたのですが、その会場にハーバード大学の旧知の教授が来ていて、発表後「君の英語は、普段はとても良くわかるのだが、今日のように英語と日本語を同時にしゃべったら、英語が日本語のイントネーションに負けてしまっていて、何を言ってるのか、さっぱり理解できない」と酷評され、ショックを受け、それをどのように乗り越えたら良いのか、本当に悩みました。これがトラウマとなって、マサチューセッツ大学で教えていた頃は、自宅で英語での講義をすべてカセットテープに録音し、それを通勤途中に車中で聴きながらリハーサルしないと不安で、息子に心配されたほどでした。

生まれて初めてなりたいと思った職業
 『鉄人28号』が大好きだったので漫画家です。今でも、鉄人28号の(とても小さな)フィギュアを自宅にも研究室にも飾っています。

いまの仕事に就いていなかったら
 京都大学経済学部を卒業した後、1年あまり東京で普通のサラリーマンを経験したことがあります。その後、京都大学文学部に学士入学して勉強をやり直し、高校教師になりました。そうすることがなかったら、今も普通のサラリーマンだったかもしれません。ただ、京都大学時代の友人や同級生の中には、大学教授はもちろん、著名な企業の社長や重役、大きな組織の理事長の職に就いている人もいます。ですから、同じようにサラリーマンをしていて社長になっていなかったら、歯ぎしりして、悔しい思いをしているか、自分自身に失望して、自暴自棄になっていたかもしれません。は、は、は(笑)。

乗っている車
 インフィニティG37クーペですが、私の心の中ではこれは「スカイライン」なんです。子どもの頃、父が乗っていた車が当時のプリンス自動車の(初代)プリンス・スカイラインで、自分が大学生になって免許を取って乗った車が通称「ケンメリ」ことスカイラインGTでした。その後、日産自動車がスカイラインをインフィニティGとしてアメリカに導入した2002年以来、「スカイライン」ひとすじです。

休日の過ごし方
 私の大学の研究室をご存知の方は信じられないかもしれませんが、「掃除大好き人間」です。ダイソンの掃除機を2台持っていますので、休日は掃除が欠かせません。

好きな場所
 「スカイライン」を走らせて、ソノマのグロリア・フェラー(Gloria Ferrer)ワイナリーまで行って、そこのテラスで、のんびりスパークリング・ワインを楽しみながら、遠くのほうのなだらかな山々の景色を眺めるのは至福の時です。

1億円当たったとして、その使い道
 こう言ったら「スカイライン」に失礼なのですが、ポルシェかフェラーリを買って、残りを老後のために貯蓄するか、パリにアパートを買うか、ホノルルに行ったら「天国の館」ハレクラニ(Halekulani)に必ず宿泊してハウス・ウィズアウト・ア・キー(House Without A Key)で世界的に有名なフラダンサー、カノエ・ミラーさんのフラを毎晩のように満喫するか、思い切ってコンドミニアムを買います。もしくは、日本との往復をビジネスクラスにしたことはこれまで一度しかないので、必ずビジネスクラスにします(笑)。

5年後の自分に期待すること
 現在、『日本語応用言語学ハンドブック(Handbook of Japanese Applied Linguistics)』をドイツの出版社から出版することになっていますし、担当している『言語大学塾』もYouTubeでもうすぐ始まります。来年度からは『日本語言語学ジャーナル(Journal of Japanese Linguistics)』の主幹を務めさせていただくことが決まっていますので、これを無事にできるだけ長く続けたいです。また、現在と同じように、元気で講義をし、研究活動、そして地域や全国レベルの教師会を通して、さまざまな地域貢献活動・啓蒙活動に従事していたいです。

日本に戻る頻度
 年に1度か2度くらい、多い時は3回くらい日本に帰っています。今年度からは、国立国語研究所の日本語教育研究・情報センターで客員教授をしていますし、「多文化共生社会における日本語教育研究」「述語構造の意味範疇の普遍性と多様性」「日本語学習者用基本動詞用法ハンドブックの作成」という3つのプロジェクトに参加しているので、東京に行く必要があります。

最近観た映画
 なんと『ダークナイト ライジング(原題 The Dark Knight Rises)』と『アメイジング・スパイダーマン(The Amazing Spider-Man)』です。

最も印象に残っている本
 『言語と文化―言語学から読み解くことばのバリエーション』(南雅彦・著)です。これは半分冗談、半分本気です。高校生の頃に読んだイギリスの数学者・哲学者バートランド・ラッセル(Bertrand Russell)の『哲学入門』が、その後の私に進むべき方向性を与えてくれたと思っています。民俗学者で『蝸牛考』(方言周圏論)を提唱した柳田國男先生の全集30巻を昨年いただいたのですが、その膨大な研究・著作の爪のあかでも煎じて飲みたいと思っています。

座右の銘は?
一期一会。本来の意味とは異なるかもしれませんが、一見、どんなにつまらなく見えることでも、「ガチ」という言葉が象徴する真剣勝負の姿勢を保ちながら、バカバカしいまでに一所懸命やる、精一杯やる、後悔のないようにやるよう肝に銘じています。

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取材を終えて
 実は母校の恩師の南先生。インタビューという形での再会でしたが、教育・研究への情熱は昔も今も全く変わっていませんでした。日本・アメリカ両国での今後のご活躍をお祈りしております。

(BaySpo 2012/08/17号 掲載)

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