一般編  Vol.198
藤原 聡子さん
東京都渋谷区生まれ。東京音楽大学声楽科オペラコース/同研究科を首席で卒業、修了。現在、サンフランシスコのOld St. Mary’s Cathedralの音楽監督。学習院の校友会、桜友会の北加支部世話人。10年越しのパートナーと娘と息子の4人家族。sfmusicnote@gmail.com
好きで進んだ歌の道で今がある
東京音楽大学、インディアナ大学で歌を勉強し、現在はカトリック教会での典礼音楽家そして歌手として活躍。藤原さんに、ベイエリアでの暮らしぶりについて伺いました。
藤原 聡子さん

(Satoko Fujiwara)BaySpo 1427号(2016/04/01)掲載

ベイエリアに住むことになったきっかけ、渡米した年
 1991年に在学していた日本の音大の給費留学生のオーディションに受かって、ピアノ科の人と2人で渡米、インディアナ大学ブルーミントン校でオペラの勉強をしました。当時はイタリアに留学希望だったので、英語よりイタリア語の方ができました。「よく一人で学校のレジストレーション(履修登録)などをこなしていけたな」と、いまさらながら若かった自分に感心します。ベイエリアには元夫のロースクール進学のために家族で引っ越してきました。

ベイエリアの印象
 爽やか! の一言。初めて来たときは夏だったので、東京やインディアナの蒸し暑さと比べると、まさしく天国のような涼しさですよね。

自分の専門分野について
 ダウンタウンにあるOld St. Mary’s Cathedralの音楽監督、つまり典礼音楽家です。日本ではあまり馴染みのない職種かもしれませんが、欧米ではごく一般的な職業音楽家の仕事です。仕事の内容は教会で行われる全てのミサで使われる曲の選択。カトリックではYear A、B、Cと、3年周期でその日に読まれる福音の箇所が変わります。その日のテーマにあった音楽をプログラムします。それから、結婚式と葬儀のコーディネーター、聖歌隊の指導、付属の学校(幼稚園から8年生まで)の音楽一般、子供の聖歌隊の指導、クリスマスの特別少女合唱団の指導などです。また歌手として、教会でソロを歌ったり、聖歌隊の先唱者(cantor)としての役割も果たしています。自分の教会をはじめ、St. Mary, St. Anne, Grace Cathedral, Star of the Sea, St. Peter and St. Paul, St.Patrick・・・などで歌ってきました。自宅ではピアノの指導とボイストレーニングも行っています。

その道に進むことになったきっかけ
 天使のお導きで・・・といっても過言ではありません。カトリック教会だったらラテン語で歌えると思い、今の教会の聖歌隊に入りました。実際は1960年代に開催された第2バチカン公会議以降その国の言葉でミサが挙げられる様になり、ほとんどの讃美歌は英語になりましたが。ある年の復活祭の2週間前に突然当時の音楽監督が辞めてしまい、音楽の学位を持っているからというだけの理由で、「とりあえず」臨時の音楽監督になってほしいと言われ早18年になります。
英語で仕事をするということ
 言葉をはっきり歌うこと、に尽きます。辛口の娘にはよく、「ママは文法はめちゃくちゃなのに、滑舌と発音はいいよね」と言われます。

英語で失敗したエピソード
 「r」と「l」の発音を間違えて歌ってしまったことがあります。「Pray(祈る)」と「Play(遊ぶ)」では大違いですよね。

英語が100%ネイティブだったらどんな仕事に?
 音楽はそれ自体一種の言語ですから、今と同じ仕事だと思います。仕事では英語以外にラテン語、スペイン語、中国語、イタリア語で歌います。

あなたにとって仕事とは?
 家族を支える生活の糧であると同時に、自分の精神面を支える人生の柱。

生まれて初めてなりたいと思った職業
 歌手。もともとウィーン少年合唱団が大好きで歌の道に進もうと思ったので。

いまの仕事に就いていなかったら
 カレー屋さん。私のカレーは娘の高校で年に数回開催されるフードフェスの人気ナンバー1だそうです。(おだてられて何度も作っています)

現在、住んでいる家
 サンセットにある一軒家を賃貸しています。

休日の過ごし方
 調理実験。TVドラマ「孤独のグルメ」が大好きなので、そこに登場する美味しそうなものをネットで調べながら作っています。主に日本にいたときにはあまり食べたことのなかったモツ系や豚足など、家族があまり好きでないものを自分だけのためにのんびり作ります。

最もお気に入りのレストラン
 ノースビーチにある「Café Pucchini」。イタリアオペラのアリアが聴けるジュークボックスがあります。この店のクラムチャウダーがSFで一番好きです。あと、バークレーにある「Gaumenkitzel」というドイツ料理店も好きです。  
                 
1億円当たったとして、その使い道
 一部は自分の教会のパイプオルガンの修復費として寄付して、あとは家族といつでも旅行ができるように貯金しておきたいです。

日本に戻る頻度
 子供たちが小さかった時は毎年帰っていましたが、最近は2年に一度ぐらいですね。

日本からベイエリアに持って帰ってくるもの
 楽譜! 日本で印刷された楽譜はきれいで見やすいです。小さいお弟子さん用のピアノの楽譜は毎回必ず買います。

現在のベイエリア生活で、不便を感じるとき
 これはベイエリアに限ったことではありませんが、ちょっと具合が悪くなった時にすぐに診てくれるお医者様が近所にいないこと。救急に行くほどではないけど、ちょっとしんどいっていうことありますよね。

現在のベイエリア生活で不安に感じること
 家の値段と家賃の高騰です。家賃が前の月の50%増で住むところがなくなってしまった知り合いがいます。家賃が高すぎて学校の先生が市内に住めず、SFの小学校では慢性的な教師不足になっている、という話も聞きました。私の学校でも若くて優秀な先生たちが同じ理由で2年続かずに辞めていきます。

日本に郷愁を感じるとき
 お正月です。大みそかの除夜の鐘、元旦の初詣、テレビのお正月番組を観ながら家族でのんびり過ごす3が日・・・。

お勧めの観光地
 ヨセミテ国立公園。ハーフドームの真下にあるミラーレイクに行くと、いつもとても神聖な気持ちになります。

永住したい都市
 ローマです。なんといってもカトリックの総本山、バチカンのお膝下ですから。

5年後の自分に期待すること
 今の健康を維持し、子供たちに心配や迷惑をかけないようにすること。新しいことを学ぶ気持ちをなくさないようにすること。イタリア語ももう一回ちゃんと勉強しなおしたいです。

最も印象に残っている本
 有吉佐和子の『紀の川』です。インディアナ大学の図書館の日本語セクションで見つけて初めて読み、その後そこにあった有吉全集を読破するほどハマりました。確かに古き良き日本の文化を学ぶには最適の作品です。

最近読んだ本
 『日本神話の源流』。音大に行く前に在籍していた学習院大学の教授(現在名誉教授)吉田敦彦先生の著作です。すべての大学の講義の中で一番印象に残っている授業で使われていた本で、ギリシャ神話と日本神話の類似点など、「人間臭い」神々のエピソードが分かりやすく解説されています。

最も印象に残っている映画
 『かもめ食堂』。私にとって精神安定剤的な映画です。海外でしっかり地に足をつけて生活してる女性が主人公で、もう何回観たかわかりません。毎回観終わった時に「私も気負わず自分の人生を歩んで行こう!」と思います。

最近観た映画
 『Spectre』です。歴代のボンドの中でもダニエル・クレイグが一番好きです。

自分を動物にたとえると?なぜ?
 ナマケモノ。たまに一日中一人で居られる時はカウチのお気に入りのコーナーで、読書、DVD鑑賞、読書、昼寝、DVD鑑賞・・・と、ほとんど動かなくても大丈夫だから。

座右の銘
 「備えあれば憂いなし」。いまだにコンサートや実技試験の直前に暗譜が出来ていなくてパニックに陥る夢を見ます。

(BaySpo 2016/04/01号 掲載)

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