一般編  Vol.115
浦田伸夫さん
三重県津市で育ち、私立高田中学、四日市高校に学ぶ。東京大学工学部修士。日本では三菱系化学会社に研究員として勤務した後、カイザーアルミナム研究職に転職のため渡米。2003年よりアルミ技術コンサルタントとして独立。家族は妻、息子3人と、嫁2人、孫1人。
「包丁1本」ならぬ「方程式1個」でやってきた
日本で行っていたアルミ精錬の研究を追及するため、今から約30年前にアメリカに移住してきた浦田さん。研究中に考え出した方程式1個を武器に国境を越えて活躍してきた浦田さんに話を聞いた。
浦田伸夫さん

アルミ技術コンサルタント(Nobuo Urata)BaySpo 1124号(2010/06/04)掲載

ベイエリアに住むことになったきっかけは?
 日本では、三菱系の化学会社の研究所に勤務しました。研究分野はアルミ精錬です。8年間務めた後、ベイエリアにあるカイザーアルミナムに転職し、1979年に永住を視野に入れて渡米しました。

なぜアメリカに転職を?
 日本で研究中に、アルミ精錬の効率を上げるために必要な方程式を考え出したのですが、アルミは電気の缶詰といわれるほど、製造に巨大電流を使うため、電気代の高騰で日本では事業が閉鎖となりました。この方程式の技術、要するに省エネ技術を追求したかったので、アメリカの会社の研究所に移ったというわけです。この方程式が産業界、学会で認められ、新しい分野が発展しました。というわけで「包丁1本」ならぬ「方程式1個」でやってきました。最初はアメリカ国内の工場を省エネ化する仕事が中心でしたが、1990年代から、アメリカでも電気代高騰で採算割れになり、重点がヨーロッパ、オーストラリア、アフリカに移りました。2000年代になると、ヨーロッパでも採算割れが起きてきて、ロシア、中東、インド、中国、南アフリカなどの新興国が主力になりました。仕事も、研究開発から技術供与へ、要するに売り食いに重点が移り、アメリカ国内出張から、ヨーロッパ、次にはアフリカ、最近はロシア、中国、インドとなりました。1個の方程式のおかげで、各地で歓待されました。2003年にその部門が無くなり、コンサルタントとして独立してからは、かつての同僚、顧客とのつながりで、仕事をしており、現在、米国環境保護局や米国エネルギー省等の研究基金を受けた開発にも協力しています。

方程式を考え出したのは?
 28歳のときに完成したもので、論文にすると5ページくらいです。出来上がったときはユニークだとは思いましたが、せいぜい5年くらいの寿命だと思っていました。それで35年もやってくるとは思いもしなかったですね。

方程式は誰がどんな風に使う?
 方程式を特許にするのは難しく、誰が使ってもいいわけです。もしも、その式を使った周辺装置の特許をとっていたらお金持ちになっていたかもしれませんが(笑)。つまり式自体は、人類共有の財産ということになりますから、色々な人がその式を利用して新しい設備を作ってきたわけですが、間違って解くと、莫大な設備投資が無駄になります。そこで、方程式を使って作ったものがちゃんと動くかどうかの監査というような仕事にも携わってきました。

ベイエリアの印象
 気候が温暖で、実業、芸術、趣味、スポーツ、どれをとっても多彩で活発、人材も豊富なことを実感します。しかし、貧困、安全、健康、福祉、人種問題など社会矛盾も多く、外からみるようなパラダイスではないと思います。

英語で仕事をするということ
 勤めた会社は戦後早くから世界各国に進出したインターナショナルな会社でしたが、日本との関係は薄く、英語ばかりの環境でした。意思疎通が自由にできるようになりましたが、けっこう衝突、論争に見舞われました。5年ほどで、英語で夢をみるようになりましたが、長期出張先のガーナやウェールズでは半分も相手の話す英語がわかりませんでした。ガーナで研究をされた、野口英世博士はどれくらいアフリカなまりを理解したのでしょうか。

英語で失敗したエピソード
 ペット屋さんに電話をしたときに、タートル(亀)と何度言ってもだめでした。アメリカ人の同僚が気の毒ということで、マリリンモンローとかシボレーの発声を教えてくれました(笑)。

浦田さんにとっての仕事とは?
 渡米当初、残業が終わって車でゲートを通過しようとしたら止められてトランクを調べられたことがありました。後で聞いたら、遅く出ていくのは、会社の物を持ち出そうとする場合が多いので、守衛がチェックするとのことでした。それから、家内の体調が悪かったとき、会議があったので出社すると、会議のメンバー全員に「女房をほったらかして一体何をしにきたのか」と白い目で見られたこともありました。こういった環境で長く仕事をしてきましたので、日本的な仕事観は薄れてしまったように感じます。しかし、一方、仕事中心でやってきて「ライフワーク」と呼べる仕事に出会えれば幸せですね。

アメリカに移住する日本人はどう変わってきたと思う?
 日本人が本格的に海外進出を始めた1970年頃、アメリカで一から市場開拓をしてきた、いわゆる新一世といわれる人たち、それからその10年後にきた僕の世代もそうですが、まだそこにはアメリカを追いかける立場としての意識があった。僕は技術を提供する側の立場で渡米してきたので、アメリカから何かを学ぼうという意識はそれほど大きくはなかったものの、それでも日本の代表としてきちんと行動しなくてはという気持ちは常にどこかにありました。日本がずいぶんと豊かになった今、若い世代の日本人はそういった気負いがない分だけ、もしかしたらアメリカの経験が長い僕よりも、もともとインターナショナルな素質があるんじゃないかと思います。

いまの仕事に就いていなかったら
 多分、日本の大学で、お茶をすすりながら、なんかの研究をしていたと思います。

休日の過ごし方
 私の案出した方程式は電磁流体の挙動を表すので、天体現象と多少オーバーラップします。家内が大学で天文同好会に所属、流星観測などの趣味があったので、一緒に天体観測、天体写真に時間を費やしています。Peninsula Astronomical Societyという天体観測グループにも入っており、ヨセミテでの観測を楽しむこともあります。インターネット関連では、フラワーデザインの教室、サンフランシスコに本拠を置くジャパンクラブ、大学での仲良しクラスメート用に本格的なウェブサイトを3つ作ってしまったので、改良とメンテナンスに追われています。

好きな場所
 自宅です。家内のフラワーデザインの教室兼仕事場になっていますので、家中に花が溢れています。どんな高級なホテルよりも落ち着きます。外ではSea Cliff StateBeachに釣りによく行きました。必ず何かは釣れます。

1億円当たったとして、その使い道
 管理人つきの別荘を、3軒購入したいです。フリーモントピーク近くに私設天文台を兼ねた家、昔、担当マネージャーだったアルミ工場があるウェールズかライン下流のドイツにヨーロッパの友人達と付き合う家、ハワイに保養別荘です。

最近日本に戻って驚いたこと
 先日、母の介護で1ヶ月以上滞在したのですが、社会制度として定着しつつある介護制度、いろいろ問題はあるのでしょうが、概して良心的で一生懸命な介護関係者が印象深かったです。非常に親切だった年金機構にもびっくりさせられました。海外在住者の年金申請、年金の計算法、厚生省年金局勤務だった友人が関わった日米での年金通算とその考え方を聞いてきましたので、細部を詰めてジャパンクラブのウェブサイト(www.jc-sf.org)で紹介できたらと思っています。

5年後の自分に期待すること
 星雲の計算をやっていること。アルミ技術の指導など、自分にあったボランティアをやっていること。

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インタビューを終えて
 世界中で撮影した浦田さんの写真アルバムを見せていただきました。アフリカの野生公園や、ロシア、スウェーデンなどの工場の風景から、方程式1個で国境を越えてきた浦田さんの活躍ぶりが伝わってくるようでした。


浦田さんに5の質問
最も印象に残っている本は?
 住井すゑさんの「橋のない川」は、人間社会の矛盾を解決しようとする部落開放のストーリーが印象に残っています。

最近読んだ本は?
 塩野七生さんの「ローマ人の物語」です。二院制政治など現在の社会の仕組みのほとんどが、この古代ギリシャ・ローマ時代を起源にしていることに感心しました。

最もお気に入りのレストランは?
 サラトガ・サニーベールとスティーブンスクリーク近くの「寿司国」さんです。

よく利用する日本食レストランは?
 サニーベールのホテル・ラマダインに入っている「Kyoraレストラン」です。

印象に残っている観光地は?
 グランドキャニオンや、カナディアンロッキーからアリゾナにいたるアメリカ西部の国立公園は、全部は行っていないですが、素晴らしいですね。アメリカ国外ですと、ガーナに行ったとき、人々のはじけるような、輝いた笑顔が強く印象に残っています。

(BaySpo 2010/06/04号 掲載)

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